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 二人は今、フードコートのテラスのベンチに並んで座っている。  くじ引きの賞品の「フードコートで使えるお食事券」で、仲良くハンバーガーを食べていた。両脇に置いたトレイには、コーラやポテトも載っている。 「絶対おかしいよ。わたしのポケットに入れたレシートが、千裕のレシートに混ざっていたなんて!」 「別にいいじゃん、細かいことは気にしなくても――。こうして、ただでハンバーガーが食べられて、めでたしめでたし――だったんだからさ」 「それは、そうかもしれないけど――。なんか嫌だよ。お気に入りのコートのポケットが、入れた物がなくなって、『ない! ない!』って探さなくちゃいけない、『ないないポケット』だなんてさ――」  美湖の言葉を聞くと、千裕は愉快そうに笑って言った。 「ハハッ! 『ないないポケット』かあ――。でも、美湖が考えているのと、少し意味が違うかも」 「意味が違うって?」 「この前言っただろ? 入れた物がなくなるんじゃなくてさ、大事な物をなくさ、忘れために助けてくれる『ないないポケット』なんじゃないかな?」  言われてみれば、確かにそうだった。  切符もスマホも、そしてレシートも、ポケットから消えて、もっと安心できる場所へ移動していた。財布やリュックサック、そして千裕の手の中へ――。  そのとき美湖は、はっとした。  レシートは、左のポケットに入っていたのかもしれない。美湖は、慌てていて右のポケットしか探らなかったけれど――。  そして、美湖が財布やバッグの中を調べているとき、隣にいた千裕が、美湖に気づかれないように左のポケットを探してくれていたのだとしたら――。 (それなら、すぐに教えてくれたらいいのに! ああ――、でも、あんなふうにレシートが出てきたから、何だかいいことが起こりそうな気がして、元気が出たんだよね――)  美湖は、ぼんやりと千裕の横顔を眺めているうちに、別のことにも気づいてしまった。  あの中二のときの告白失敗事件――。 (もしかしたら、先輩に彼女がいることを知っていた千裕が、こっそりわたしのバッグから手紙を取り出していたのかも――。まさか、そんなことは――。でも――)  思えば、千裕は小さい頃からずっと、美湖にとっての「ないないポケット」だった。  心配いら、怖く、一人ぼっちじゃ――。ちょっとした言葉や態度で、いつも美湖にそう思わせ励ましてくれる存在だった――。 「ごちそうさまでした!」  そう言って腰を上げようとした千裕の左手を、美湖は右手でぎゅっと掴んだ。 「な、何だよ!? 急に!」 「大事な物は、丁寧に扱わないとね! それに、なくさないように気をつけなきゃ!」 「えっ?」  美湖は、二人の手を一緒にコートのポケットに入れた。  そして、どこかへ行ってしまっては困るので、もう一度しっかり握り直した――。
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