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「えっ!? わっ! やだっ! 入ってない!」  美湖(みこ)は口を開けたバッグを抱え、慌てて改札機から離れた。  絶対に入れたはずの物が、入っていなかった。  通学に使っているIC定期券――。  通学用のリュックからケースを外して、そのままバッグに入れたはずなのに――。  家に戻ると約束の時刻に遅れてしまうので、悔しいけれど切符を買うことにした。ものすごく損をした気分で、のろのろと券売機へ向かった。  美湖は、かなりのうっかり屋である。  高校二年生になった今も、よく物を忘れたりなくしたりする。  細かなことを気にしないおおらかな性格――と言えば聞こえはいいが、周りの人間に迷惑をかけることも少なくない。本人も、直した方がよいと自覚している。  だから、上着のポケットに、ティッシュやリップクリーム、絆創膏などを入れっぱなしにするのはやめた。  今日も、ちゃんとポケットの中を空にしたコートを着てきた。  英国へガーデニングの勉強に行っている叔母の美千留(みちる)から、誕生日プレゼントとして届いた、ツイード地のちょっとレトロな雰囲気のコートだ。  大きなポケットは便利そうだが、美湖は物を入れないように気をつけている。  コートには、美湖の癖をよく知る叔母から、「大事な物は丁寧に扱うこと」と書かれたカードまで添えられていた。 (そう思って、定期をバッグに入れたのになあ――。うまくいかないものね!)  美湖はそんなことを考えながら、手にしていた切符をポケットに押し込み、ホームへ続く階段を駆け上がっていった。
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