1.研究員佐藤浩史は絵が上手くない

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1.研究員佐藤浩史は絵が上手くない

「佐藤君、ちょっと実験に付き合ってくれないか?」  佐藤浩史が午後のお昼寝タイムを満喫していると、飯田橋博士に声を掛けられた。 「なんの実験っすか?」 「瞬間物質転移装置が出来上がったんじゃ」 「ええー、俺どっかに飛ばされちゃうんすか?」 「そんな大掛かりなものじゃない。ちょっとこのジャケットを着てみてくれ」  博士に言われた通り、ジャケットを羽織ってみる。 「この紙に何か書いて右のポケットに入れてくれ」 「何かって、何書けばいいんすか?」 「絵でも文字でも何でもいいから、早くしなさい」  渡された紙を机の上に広げ、ボールペンを握ってみるが、何を書けば良いのかわからない。 (そうだ、博士の似顔絵描いちゃおーっと)  似顔絵を描き終わると、佐藤はそれを四つ折りにして言われた通り右のポケットの中に入れた。 「準備できました~!」 「よろしい、じゃあこの装置の中に入って椅子に座って」  指示通りガラス張りの装置の中に入って椅子に座ると、その瞬間、正面に置かれていた銃のような機器から赤い光線が発射され、それがジャケットの右ポケットを射抜いた。 「よし、もう出てきていいぞ」 「は~い」 「ポケットから紙を取り出してくれ」  急いで取り出してみると、なんだかおかしい。 「あれ? なんで便箋が入ってるんだろ?」 「実験成功じゃ。君の描いた絵がどこかに転送され、代わりに他のどこかから君のポケットにその便箋が転送されてきた、ということじゃ。恐らく同じくらいの質量のものに置き換わるんじゃろ」 「へぇ、凄いっす博士、尊敬するっす」  適当に博士にゴマを擦ってから便箋に目を落とす。 「なんかこれ親書って書いてありますよ。親書ってなんすか?」 「ああ、親書と言うのはな、国のお偉いさんが他の国のお偉いさんに出す手紙のようなものじゃ。ちょっと見せてみなさい」  佐藤から親書を取り上げて読み始める博士。 「で、何が書いてあるんすか?」 「まあ大雑把に言うと、今までお互いいがみ合ってきたが、これからは仲良くやっていきましょう、っていう仲直りの提案じゃな。世界が平和になるならそれに越したことは無い」 「そっすね。平和バンザイ!」  佐藤浩史は平和な世界がいつまでも続いて欲しいと切に願った。 
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