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完全な逆恨みだ。悪いのは私ではなく、かわいげゼロだったあの黒猫ではないか。それで死んだって自業自得なのに、どうして恨まれなければいけないのか。
「ふざけんじゃないわよ……!」
ついに。
段ボールは、私が一人暮らしをしているアパートの203号室の前に置かれた。許して貰うしかないとかあの先輩は言っていたが、なんで悪いことなんかしていないのに謝らなければいけないのだろう。むしろこっちが謝罪してほしくらいだというのに。
「お前なんか、こうしてやる!」
あの段ボール箱が開かなければ安全だ。そう思った私は、ガムテープで厳重に段ボールに蓋をしたのだった。
テープを張っている間、段ボールが抗議するように震え続けていたが、おかまいなしに。
これでもう、中身が外に出てくることはない。
いくら私をストーキングしたところで襲うことなどできない。万事解決だ。そう思っていた。でも。
「しつこいのよ!」
さらに次の火曜日。振り返ったら、部屋の中に段ボール箱があって。
苛立ち交じりにそれを蹴っ飛ばした私は、景色が反転するのを感じたのである。頭から、何かに突き落とされた。真っ暗――いや、微かに天井から光が射し込んでくる、奇妙な空間へ。
とても狭い部屋だ。体育座るをして蹲ることしかできないほどに。立ち上がることも、身動きすることもできないくらいに。
――なにこれ。
微かに動く手で壁を、天井を撫でて気づいた。ざらざらとした紙の感触。微かに見える茶色い壁。――これが、段ボールの中だということに。
そう。
いつの間にか、私が段ボールの中に閉じ込められているのだ。さっきまで外にいたはずなのに。まるで、悪夢でも見ているかのように。
「や、やだ!なにこれ、なにこれ!?助けてっ!!」
ガタガタガタガタガタ。誰かにここから引っ張り出して貰わなければと、私は必死で体を揺する。私の体と一緒に壁が、床が、段ボール全体が震える。
外から人の気配がする。微かに声が、物音が聞こえる。大丈夫だ、これできっと気づいて貰えるはず。
しかし、その矢先に。
「お前なんか、こうしてやる!」
聞こえた声は、あまりにも覚えがあるものだった。え、と思った瞬間、びりりりりり、とガムテープが引っ張られる音が聞こえる。
誰かが、段ボールの蓋を閉じて、完全にここを暗闇に閉ざそうとしている。私を二度と此処から出られないように閉じ込めようとしているとわかった。
そして、その誰かの正体は。
「いやあああああ!お願い、やめて、助けて!!」
すべてが闇に閉ざされる寸前。
隙間から見えたのは、鬼のような形相でこちらを見下ろす“私”の顔だった。
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