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変なものを見た、という認識は私にもあった。
しかしこの時点で起きたことといえば、駅で震えるヘンなダンボール箱を見たというそれだけのことである。中にやばいものが入っているのを実際に見たわけでもなんでもない。
だから、忘れていたのだ。
一週間後の火曜日、また同じダンボール箱を見るまでは。ただし。
「はっ!?」
今度は少し違う場所だった。私が大学から帰るために電車に乗り、自宅最寄りのA駅に到着した直後のことである。
降りた2番線のホームに、同じダンボールが置いてあったのだった。しかも、まるで私を待ち構えていたように通り道に置かれていたのである。
横を通り過ぎた途端、またしてもがたがたがた、と震え始めた。まるで、私に何か訴えかけでもしているかのように。
――な、何よ!何だってのよ、もう!だ、段ボール箱に知り合いなんかいないんだから!
強がってはみたが、この時点で正直だいぶ気分が悪かった。まるで、誰かに嫌がらせをされているような、そんな気になったからである。
さらにはその一週間後。今度は、最寄りのA駅の改札を出たところ、券売機の前に同じダンボールが置かれているのを目撃した。それも、またしても私が家に帰るために丁度通る道に、である。
がたがた、がたがた。
震えるダンボールの隙間が、前よりも開いているような気がするのがまた恐ろしい。ひょっとしたら、あの場所から何かが飛び出してこようとしているのではないか。そしてそれは、見ては恐ろしい何かなのではないか。次第にそんな恐怖が高まっていったのだった。
そして。
――や、やっぱりそうだわ。
その次は、駅から自宅のアパートに向かう帰り道。必ず通る、公園の入口に置かれていた。
――段々、私の家に近づいてきている!
奇妙なことに。あれだけ大きな段ボールなのに、目の前を通り過ぎる人が誰も気に留めている様子がない。そこに箱なんてないように、まったく見えないとでも言うように過ぎ去っていく。むしろ、横を通るたびに凍り付く私の方を奇異の目で見つめるほどだ。
ひょっとして本当に、あれは私にしか見えていないものなのだろうか。つまり現実の物体ではなく、なんらかの怪異と呼ばれるものなのではないか。
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