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ついてくるもの。
それが始まったのは、私が女子大生になったばかりのことだった。
大学の授業は、高校までのそれとは違う。自分で好きなようにカリキュラムが組めるというメリットがある。また、必修科目でない限りある程度苦手な科目は弾くことができる。特に私のように暗記が苦手な生徒は、可能な限りテスト科目を弾けるというだけで非常にありがたいものがあるのだ。
しかし、残念ながら英語だけは逃れることができない。
うちの学校と学部ならば第二外国語を取る必要はないが、何がなんでも一年生から三年生までは英語の科目を取らないと単位が足らなくなってしまうのだ。実質必修科目である。
英語の授業は授業中のレポートもあるし、テストもある。どんなに先生の講義が子守歌に聞こえても、どこで指されるかわからないから眠るわけにはいかない。
よって英語の授業がある火曜日は、くたくたになって家に帰る羽目になるのだった。その日の夕方も、まさにそんな調子だったというわけである。
――しんどい……超しんどい。
キャンパスから駅までは徒歩十五分。歩けるだけマシな距離とはいえ、疲れている時には少ししんどい。帰りは駅までゆるやかに道が昇っているから尚更に。
――一生日本から出ないつってんのに、なんで英語なんか勉強せなならんのよおお……。ああもういや、いや。ドラえもん、ほんやくコンニャク出してー……多少のお金なら払うからぁ。
心の中で、某猫型ロボットに助けを求める。ややふらつきながら駅前の交差点を渡り、改札へ向かおうとしたその時だった。
「んん?」
駅の柱の前に、何か奇妙なものが置いてある。茶色の、段ボール箱だ。かなり大きなサイズで、それこそ大人がすっぽり入ることができそうなほどである。ガムテ―プで閉じてあるわけではないようで、小さく隙間があいていた。
空箱だろうか。それにしたって、こんな人通りの多い場所にあったら邪魔でしかない。コンビニの人かなんかが置きっぱなしにして忘れたのだろうか、と。そう思いながら横を通り過ぎようとしたその時である。
がたん。
「え」
箱が震えた。思わず足を止める私。微かにある箱の隙間は真っ暗で、中を覗くことはできない。でも、確かに。
がたん。
がたん、がたん、がたん。
――う、うそ?中に何か、入ってんの?
揺れている、というより震えている。小刻みに、まるで何かに怯えるかのように箱そのものが。
まさか、生き物でも入っているのだろうか。
――や、やだ、きもちわるっ!
その時思ったのはそれだけだった。私は足早に通り過ぎ、改札を抜けていったのである。まるで、逃げるようにして。
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