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丁度初デートも、この外苑前の並木道の入り口だった。
緊張でガチガチだったのに、金色の銀杏並木があんまり豪勢で、思わず歓声を上げてしまった。ね、すごい綺麗だね。もの凄い勢いで見上げると、ちょっと驚いたような瞳にかち合った。途端に恥ずかしくなり、あ、ごめんと言いかけると、いや全然って言うかいいな、と独り言のような声が降ってきた。
「え?」
「あ、うん、いや葉月さんってあんまり喋んなかったでしょ、最初の時。だから二択かって思ってたから」
「二択?」
「うん。俺に興味ないのか単に大人しいのか」
「……」
「って、ちょっと待って。それで言ったら今決定的にマズいじゃんなあ」
「え?」
「だって俺の読み通り葉月さんは別に大人しい訳じゃない、でしょ?」
見下ろしているくせに掬い上げるような瞳で訊いてくるから何だか笑ってしまった。
「な、だよな」
「だよな?」
「うん。葉月さんには表情が沢山ある」
満足気に頷いている横顔がまるで小学生さんのようで、やっぱり吹き出してしまった。そんな私を嬉しそうに見下ろして、うん、いいよな、とまた呟いている。ちょっと照れた私は、背伸びするようにして意地悪を言ってみた。
「でもだとしたら、辻堂くんには興味がなかったって結論になるよね?」
ふふんどうだ、くらいの口角で。
「ってことですかね」
肩を落とし気味にこちらを窺うその瞳をしっかりと見つめた。今のこの楽しい気持ち。空が青くて視界は金色で空気が澄んでいて、うきうきわくわくどきどきで。それはきっとこの人が隣にいてくれるからだ。
「辻堂君のお誘い、嬉しかったです」
しっかり丁寧語で伝えると、尚紀は太陽のような笑みを浮かべて、こちらこそと言った。
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