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世にも君が
ここにいたら。
君はこの世にもあの世にも居ないような気がする。
たとえあの世にでも居たら会いに行きたい。
最後に見た君の姿は、本当にいつもと変わらない。
車検代が足りない、と俺の部屋に駆け込んできた。
『ごめん!次の給料日まで足りない!あと三万!
お願いします!必ず返すので貸してください!』
しょうがないな〜と笑いながら貸したあの日から俺の前から姿を消した。
残された車の車検はきっちりとしてあった。
なぜ?
何故俺に何も言わずに消えたのだ。
君は俺の仕事の大失敗も盛大に笑い飛ばしたのに。
主任、課長からはかなりの怒号を浴びさられたが、君に笑われてぐすぐすしていた気持ちはすっと消えていた。
それはきっと君だった、からだったんだな。
俺はずっとそんな気持ちを抱きながら何も言えずに曖昧にして、いい距離を保って少しでも長く居たかった。
今思い出して苦しくなって、どうすれば良かったのかなんて考えても分からないのに、また考えては苦しくなって。恋愛なんてするものじゃない。
こんな気持ち知らなければ。
知ってさえいなければ、こんな気持ちになることもない。
そんな今日は俺の車検がある。もう家を出なければいけない時間だ。
【車検】のワードが俺を苦しくさせる。
ふとコートに手を掛けた時、インターホンが鳴る。
「また勧誘か…こんな時に」
映像越しに、見覚えのあるチェックのダッフルコートの女性。少しうつむいているけど、ずっと近くで見てきた俺には分かる。
「…三万返しに来たよ」
胸が苦しくなった。
動悸だって急にすごい。
君に会えるとおもうと。
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