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「私は、ゆかり」
「私の名前はねぇ……
ないんだよねぇ」
……ん?
名前が、ない…?
「え、じゃぁ誰なんですかあなた」
当然の質問に彼女は笑った。
「あっははは!君ってよくデリカシーないねって言われない?」
心の底から笑ったような声に、僕は戸惑う。
いや、状況忘れかけてたけど、今…………なんか崩壊始まってるとこだよ??
笑えないよ普通に??
いやそれもそうだけど。
「僕喋る友達いないんで言われないですね、ハイ」
自分で言っておいてなんだけど普通に悲しい。
あーぼっちってかなしい。
「あはははは!やっぱ君面白い」
「そんなにですか……」
そして彼女は笑顔のまま真実を告げた。
「気づいたらこの姿で、気づいたらこの世界にいてて、気づいたら……全てを知らないまま放り出されてたんだよ」
「放り出され……?」
「うん、誰かに放り出された記憶だけはある。でもそれ以外全てを知らないんだ」
ほう、つまりこの人は。
転校してきたばっかなのにクラスの中心人物になってるような陽キャ……っ…おぇ……ぇ。
……じゃ、なくて!!
いやそうだけど!!
とりあえず身元証明もできない謎の「ヒト」ってことか。
なるほどな……。
僕が情報整理を終わらせようとしたその時。
鼓膜を突き破るほどの騒音と激しい揺れが世界を襲った。
「……!!!朝陽くん!?逃げるよ!ほら!!」
彼女は手を差し伸べながら叫んだ。
僕は頷いて手を取り。
2人、逸れないように駆け出した。
「……はぁ、っはぁ……はぁ……」
「ふぅ〜‥…めっちゃ走ったねぇ!」
なんでこの人はこんなに元気そうなんだろうか……。
少なくとも10分は全速力で走ってたけど。
今いるのは焼き野原の上に立つ一軒家の中。
かろうじて家として存在しているそれは、この世界が崩壊し始めていることを直々と伝えてくれた。
「ところでさ、朝陽くん」
「な……なんです、かぁ……?」
「息絶え絶えだけど……。私の名前、考えてくんない?」
「えぇ?」
「だって世界守るのにあんた呼ばわりとか誰呼んでんだよって感じじゃん!」
「まぁ……、それも、そうですね……ぇ」
「ワクワクするなぁ!君のネーミングセンス!!」
変な期待はしないで欲しい、本当に。
そうだなぁ……。
僕の中にあらゆる単語が浮かび上がる。
彼女に似合う言葉は……。
ぴん、と閃いた僕は言った。
「ゆかり、なんてどうですか?」
結構いいと思うんだけど。
まぁ、僕がこの名を与えた意味は……きっと彼女は気づかない。
「ゆかり……!私は、ゆかり!いいね!!」
「気に入ってもらえてよかった」
「私たちいいツーマンセルだね!!」
この人は語彙力が高い。
全てを忘れてもなお、ここまでの知能。
恐るべし。
「ところで、ゆかりさん。世界を守るって、具体的に何するんですか?」
「あぁ、それを言ってなかったか。忘れてたや」
えへへ、と笑う彼女は一言、告げた。
「神を止めるんだ……殺さなきゃ」
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