愛の夢

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         -9-       ~ 東 京 ~  ピアノコンクール本選の日。ピアノはスタインウェイのD274。史上最高のコンサートグランドピアノ。こんな広大なホールで、こんなすごいピアノを弾けるなんて、私は生きていて幸せだと思った。 「光莉さん、ドレス似合ってるね。とっても素敵」  控室で東雲君が言った。 「ありがとう。ヤなおばさんだと思っていたけど、理事長ってホントはいい人ね。ドレスを買ってくれるなんてさ」 「理事長は光莉さんのこと気に入ったんだよ。良かった」 「は?」 「さ、もうじき出番だよ」  私は深呼吸をした。 「次はS県、私立無厳坂(むげんざか)高等学校 月島光莉さんの演奏です」  ステージの袖から出て歩いてゆき、ピアノの傍らで観客の方を向いて礼をして、私はピアノ椅子に座った。  そして私はピアノを弾き始めた。  第1楽章は、静かな調べに幻想的な思いをのせる。静かに静かに弾いた。  第2楽章。静けさと情熱の間。音符が華やかに踊る束の間の瞬間。そして怒涛の第3楽章へ。  ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン        『 月 光 』  全身全霊を込めて音を造り出してゆく。ピアノと一体となった私の体から、私の知らない新しい音が次々と溢れ出す。全ての想念、感情に私は満たされる。最後の和音を弾き切ったとき、私は正気に戻った。           
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