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「だから、ピアノ部の話も・・・」
「そう・・・そうだね・・・引っ越しなら仕方ないよね」
私は通話を切って東雲君の顔を見た。東雲君が
「一人欠けたの?」
と私に訊いた。私は頷いた。
「これじゃ、ピアノ部、出来ないね・・・」
私は悲しい声で言った。
「理事長に相談してみようよ」
東雲君が言った。そして二人で理事長室に行った。
「それは残念ですね」
あっさりした表情で、理事長が言った。
「別に4人でもいいんじゃない? そもそも、光莉さんがピアノを弾きたいだけなんだし」
東雲君が理事長に言った。
「部員5人は絶対条件です」
「私、また新しい部員探します」
「ピアノが弾ける生徒はもうこの学校にはいないと思うけど」
理事長が東雲君を見て言った。東雲君は目を逸らした。
「光莉さん、行こ」
「どこへ?」
東雲君が私の手を弾いて、理事長室から出た。そして音楽室に行った。二人でスタインウェイの傍らに立ち尽くした。
「私、ピアノ部のことはあきらめる。私、楽しかったし、もういい」
「あきらめなくてもいいよ」
東雲君がピアノ椅子に座り、鍵盤の蓋を開け、ピアノを弾き始めた。
「東雲君?! え? 何で・・・?」
東雲君がすらすらとピアノを、弾き始めた。フレデリック・ショパンの『革命』。鳥肌が立つほどの演奏。繊細さと力強さが美しい旋律を正確な指の動きで織り上げてゆく。そして東雲君はまるで何事もなかったかのように最後の旋律を弾き終えて私の方を向いた。
「僕がピアノ部に入ればいいんだよね?」
「うん!」
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