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「君を見ていて、僕もまたピアノを弾きたくなったんだ」
「素晴らしい演奏でした。私、驚きましたよ、本当に!」
「でも君ほどじゃないでしょ」
東雲君が微笑んだ。それからスタインウェイを指して言った。
「これ、僕のピアノなんだ」
「え?」
「あのピアノホールも僕のなんだ」
「え・・・?」
「僕は・・・」
音楽室のドアが開いた。そして理事長が入ってきた。
「瑠偉。嬉しいわ。やっとピアノを弾く気になったのね。光莉さん。あなたのおかげよ」
東雲君を理事長は瑠偉と名前で呼んだ。
「母さんは黙っててよ」
「えっ?!」
私は驚いた。そして二人の顔を交互に見た。理事長と東雲君は目元が似ていた。
「私は、瑠偉を一流のピアニストに育てたかったの。中学までは順調だった。でも瑠偉は・・・」
「いやになったんだ。ピアノばかりの生活に」
「私はすっかり諦めていた。でもそんな時に、光莉さん、あなたが現れたの」
「はあ・・・」
「私はあなたの力を借りて、もう一度瑠偉をピアノの世界に連れ戻したかったのよ」
「えーと、私・・・」
「僕は楽譜通りにピアノを弾いていた。それでつまらなくなった。でも君といるとピアノって、もっと自由でもっと美しい音を放つものなんだってわかったんだ」
*
東雲君が私を校舎の屋上へ連れて行った。屋上から見える丘のふもとの街や遠くに見える海を二人で並んで眺めた。東雲君が何も言わないので、私はその場を取り繕うように言った。
「ありがとう。東雲君のおかげで私、ピアノを弾き続けることが出来ます」
東雲君が微笑んだ。
「お願いがあるんだ」
「はい。私、何でも協力します!」
「僕と付き合って欲しい」
「え・・・」
東雲君が私の手を握った。
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