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遂にコンクールの日がやって来た。
「次は、私立無厳坂高等学校1年 月島光莉さんの演奏です」
私が舞台の袖からステージに出ると、会場内がざわついた。
「あの子、高校の制服よ。ドレス、買えなかったのかしら」
「気の毒ね。きっとお金が無いのよ」
「ピアノの腕もたいしたことないんでしょうね」
私は、弾き始めた。
フレデリック・ショパン
『英雄ポロネーズ』
やや重い出だしから軽やかなリズムに変わる。私は嬉しかった。久しぶりに本物のピアノが弾ける。それだけでもうれしかった。ピアノはYAMAHAの最高峰のグランドピアノ『CFX』。どうしてこんな小さな街のホールにこんなすごいピアノがあるんだろう。いつまでも弾き続けていたい。この瞬間が永遠に続いて欲しい。私はそう感じながら夢中でピアノを弾いた。
「何、この透明感と躍動感・・・」
「ねえ、あの子、中学生のコンクールで賞を総なめにした天才少女に似てない? 苗字が違うけど・・・」
「なんでS県にいるの? もしその子だとしたら東京出身のはず」
弾き終わると私は盛大な拍手に包まれた。
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