4:部活辞められます。

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4:部活辞められます。

 今日も部活。作画ペースを遥かに上回る速度でプロットを書いている。細かい描写も書き入れているし、新入部員のアドバイスもあってBL小説として世に出せるレベルになっている。それなりに文芸部らしい活動は面白いけど、全ての作品は部長の管理下にあった。  描き上がった作品は、鍵付きの書棚で管理され、部長以外は持っていなかった。紙媒体なら検索で捕まる心配はない。部室から出さなければ、ばれる心配はない。何よりも独り占めしたいのが部長の本音だった。  新入部員の目的はBLだけだった。お菓子で部長の機嫌を取ると書棚の鍵を開けて貰う。食い入るように読み続ける。下校の時間になると部長に取り上げられ書棚に仕舞われてしまう。その時の二人の顔には、いつか殺すと書いてあった。毎日これの繰り返しだった。  部長は、おねだりされる毎日に嫌気がさしている。見るからに口調も何もかもホント分かりやすい性格だ。おおかた、クラスで自慢をしていたら二人に拝み倒された。と言うところだろう。最初の優越感も慣れてしまえば、鬱陶しさしかない。  さゆりさんは、ただただ絵を描き続けていた。部長がいない時のオーラは凄まじいものがあったけど上級生の二人の前では大人しく絵を描き続けていた。  あの中で、ストレスが一番溜まっていたのは、さゆりさんだった。  放課後、部室を開け一番奥の席に座るとBL小説の続きを書き進める。プロットを書いても細かいところの説明が残ってしまう。さゆりさんと話ができない以上、より詳細なプロットを書いているうちに、小説としての体裁を整えてしまった。  次に、さゆりさんが入り口近くの席に座ると小説を基に齣割りを決めて描き進めていく。その後、新入部員の二人がやってくる。さゆりさんの進捗みたり、僕の進捗みたり、部長が来るのを待っているのは言うまでもなかった。  部長が現れると、新入部員の二人はプライドが許す範囲で部長に媚を売り始めた。実は仲の良い友達同士ですと言わんばかりの雰囲気を出しているのが、逆に痛々しかった。  そんなやり取りの後、二人にBLをあてがう部長だった。そして、三人がBLに没頭しているなか、さゆりさんと僕はひたすら書き進めるのであった。  ここまではいつも通りの文芸部だった。しかし、今日は違った。  さゆりさんが立ち上がると、部長の腕を掴んで部屋を出ていった。思い詰めたさゆりさんと困惑する部長が残像のようになっていた。僕が状況を理解するより早く、新入部員の二人の動きは早かった。  書棚から作品を取り出すと、一人がページの隅を押さえる。一人がスマホで撮影する。 「はい、次」  ページをめくる。隅を押さえる。スマホで撮る。 「次」  ページをめくる。隅を押さえる。スマホで撮る。  全ての作業が終わるのに五分も掛からなかった。書棚に元通りに戻すと部長が戻っていない事を確認した。お互いに見合わせると退部届を置いて出ていった。  部長との雑談でも目が笑っていなかったから何時か何かあるなと思っていたけど、あっけないな。しかも、あんな簡単に退部届を出して縁が切れるなら僕も書いてしまおうか。  バン 勢いよくドアが開くと部長が戻ってきた。 「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい」  反射的に謝っていた・・・・。  そんな事にお構いなしで、僕の前に退部届をおいた。 「前から辞めたがっていたよね。良かったじゃないか、願いを叶えられて」  その場でサインをさせられる。 「部室のカギと、BLのプロット出しな」  どちらも、反射的に出していた。 「はい、さよなら」  気がつくと廊下に立っていた。その横をさゆりさんが笑みを浮かべて部室に入っていった。  あれから数週間がすぎた。  帰宅部はこんなに穏やかな毎日を送れるものなのか。放課後は図書室で読書をしたり、部長とさゆりさんのめくるめく世界を書き綴ったりしていた。  よく分からないまま退部させられたけど、正直なところ安堵している僕だった。文芸部は結局のところ廃部になってしまった。新入部員の二人が持ち出したBLで足がついたのだった。あの二人も部長と同じく、自慢したくなる誘惑に勝てなかったようだ。自慢すれば拝み倒される。渡した画像ファイルはそのままコピーをされる。それでもメールで直接渡されている時は大丈夫だった。しかし、一人でも掲示板にアップロードすればお終いになる。画像検索の網に引っかかりIPアドレスから上流に遡ってくる。ニュースでお馴染みの方法だ。今回は画像検索に捕まってから数日で辿り着いたらしい。奥付に学校名も作者も全部書いてあったからだ。書いてなかったのは原作者の僕の名前だけだった。  部長とさゆりさんは校長室に呼び出された。当然部長は新入部員二人の名前を出して共犯者として訴えた。そして、文芸部の廃部と四人の停学処分で幕引きとなった。  あっけないと言えばそれまでだったけど、僕は平和な日々を取り戻していた。文芸部でやりたかった事の全てが図書室の一角で叶っているからだ。これなら最初から図書委員になれば良かった。  校内放送が下校時刻を告げている。  図書室から出ると、部長が待ち構えていた。心臓がバクバクする。文芸部に引き摺り戻されるのか? いや、大丈夫だ、廃部になったからその心配はない。気持ちを落ち着けてから会釈をして横を通り過ぎようとした。腕を掴まれた。 「部活がないなら、自宅で創ればいい。勿論、百合を書き続けて構わないよ」  部長の笑みが恐ろしい・・・・。  了
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