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ネムは、甲賀シティの見習い忍者だ。
普段は女子高生として一般市民に溶け込んで生活をしながら、咲耶とシャオランの三人で一緒に忍者修行に励んでいる。
咲耶・ネム・シャオランの仲良し三人は、残念なことに、自他ともに認める落ちこぼれ忍者である。さらに悪いことに、本人たちに改善の意思が全くない共通した悪癖があった。
それは、目立つことが大好きで、「ニンチューバー」として常に配信のネタを探しながら、いつかアイドルになるために虎視眈々と生きていることだ。
「視聴者のみんなは、知られざる秘密とか、暴かれる謎が大好きでしょう? 忍者の私生活の配信って、ぴったりなテーマだと思わない?」
そう言う咲耶の予想は大きく当たった。
見習い忍者の三人が忍術や修行の様子を配信すると、あっという間に動画の再生数が伸び、フォロワーが増えた。郷土愛の強い日本人や、和文化に興味がある外国人の支持を得て、ちょっとした小遣い稼ぎができるようになった。
ネムも、咲耶とシャオランと肩を並べて、ニンチューバーとしての配信と再生数・フォロワーの獲得に力を注いだ。
ネムは忍者の花形戦法である剣術や手裏剣が苦手であったが、他の二人に負けているつもりはなかった。
ネムが得意とする動植綵絵で描かれた龍は、創造主の攻撃イメージの通りに多数の敵を一陣になぎ払う。朱墨の龍が、大きな顎で敵をかみ砕いたり、口から火炎を吐く姿は、映像で見てもかなりの迫力があった。
ネムは、得手不得手がはっきりした自分の尖った個性をあるがままに認め、不器用な自分のことを愛していた。
そのアイデンティティが、ある動画のアンチコメントによって、大きく揺らいだ。
【こんな絵は、イラストにも満たないただの記号だ】
このコメントを読んだとき、ネムは首元に鋭い短刀を突きつけられたような悪寒を感じた。
忍術の派手さでカモフラージュしていた、絵師としての技量の低さが、ついに視聴者にバレてしまったのだ。
今まで目を背け続けた自分の弱みと対峙せねばならないと、慌てて覚悟を決め、翌日に行った早朝の竹林で、動植綵絵が使えなくなった。
弱ったところに追い打ちをかけるように、ネムのチャンネルにはこの投稿に続いてアンチが大量発生した。
潜在意識の深いところに押し込まれていた絵師としてのネムが頭をもたげ、ぶつぶつと自分の絵のつまらなさと訴える。
外からの声と、内からの声が重なって耳障りな不協和音となり、さらにネムを追い詰める。
「あたしの絵がマンネリ化してることは、私が一番よく知ってるわよ・・・」
ネムの背中にはべったりとした冷たい汗が流れた。
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