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これは、風魔のクリプト絵巻が盗まれる、少し前のお話……。
「おじいちゃん!ねぇ!いいでしょ!?忍者の修行も頑張るから!」
咲耶は何やら岩爺におねだりをしているようだ。真剣な眼差しをしている。
「う~む。何か問題が起きてからでは、ただではすまんからの〜。だがまぁ、咲耶が行きたいなら仕方あるまい。」
岩爺は一瞬渋い顔をしていたが、咲耶にはいつも甘い。
「岩爺様!絶対ダメです!ここは忍んでいただかないと」
咲耶の師匠であるコンガは断固反対の構えだ。
「くどいのうコンガ!ちゃんとわしが撮影係りでついていくから大丈夫じゃ!」
岩爺はうれしそうだ。
「やった~!おじいちゃんも来てくれるなんて、はりきっちゃう!」
岩爺は満面の笑みでうなづいている。
「いや、絶対ダメでしょ。岩爺さま、咲耶に甘すぎませんか」
コンガは岩爺の決定に不服そうだ。
「うむ……しかしまぁ、わしがしっかりついていれば問題ないじゃろう。」
岩爺もついていく気満々だ。
「(だめだこの二人……全然忍ぶ気ない。仕方ない、こっそりついていこう。)」
コンガはあきれている。
「やったー!よし!私忍者のコスプレする!」
「なぬ!忍者とな⁉(咲耶もとうとう忍びに目覚めたか……)まぁよい。ハロウィンなら誰も気にせんじゃろう。まさか本物の忍者がいるなんぞ誰も思わんじゃろ。」
どうやら咲耶はハロウィンイベントに行きたいようだ。普段は目立たないように言われている咲耶だが、ハロウィンイベントだったら忍び装束で目立っても、誰も気にしないだろうと言う寸法だ。岩爺は咲耶が忍び装束を選んだことを内心喜んでいた。
「よ〜し!絶対目立って、アイドルになってやるんだから!」
咲耶はとっても嬉しそうにしている。岩爺はすでにやる気満々だ。スマホで咲耶を撮影している。コンガは……あきれて疲れ果てたようだ。
「あ〜!渋谷楽しみだなぁ〜!」
――
「おじいちゃん早く〜!」
咲耶が岩爺を呼んでいる。どうやら急いでいるようだ。
「さ、咲耶!ちょっと待て!年寄りを急かすんじゃない!」
岩爺は息を切らしながら走っている。珍しく忍び装束に身を包んでいる。咲耶はワクワクしているようだ。岩爺を待ち切れない様子だ。
「咲耶、わしよりはやいとは、やるではないか。わしの若いころを思い出すの~」
岩爺は咲耶の忍者としての才能に感心している。
「今は昔の思い出はいいから!はやく行かないと終わっちゃうよ~!」
咲耶は焦っている様子だ。
「まぁそう慌てるな。わしに任せるんじゃ!」
そういうと岩爺は印を結んだ。
「はぁ~!瞬身の術!」
二人の身体の周りが赤く光った。
「いくぞ咲耶!」
「すご~い!はや~い。」
二人はあっという間に走り去っていった。すると、草むらからコンガが出て来た。
「あ~あ~。岩爺さま、忍術は控えてくださいとお願いしているのに……。咲耶には甘いんだから。大丈夫かな~。まったく……」
コンガはあきれた様子だ。
「私も本気をだすか……明日は早朝シフトなんだけどなぁ」
そうつぶやくと、コンガはすごい勢いで走り出した。
――
「すご~い!やっぱり渋谷は人がいっぱい!みんな色んなコスプレしてるね!おじいちゃん!」
咲耶と岩爺はなんと甲賀から渋谷まで走ってきたようだ。
「本当じゃのう!じゃが咲耶が一番かわいいのう!ピンクの忍び装束も目立っておるぞ!(むぅ……様々なコスプレと共に人々の邪気が渦巻いておる。良からぬことが起きねばよいが……)」
悪鬼悪霊は実は人々の邪気によって生まれていた。ハロウィンは一年で一番、悪鬼悪霊が出やすい日だった。ここ数年はウィルスの蔓延によりハロウィンイベントが中止になっていたが、今年は数年ぶりに通常通り開催されるようだ。
「よ~し!さっそく忍術披露しちゃお!」
そういうと咲耶は印を結んだ。
「ライジョウシャスウチョウソクスウブンシン!」
なんと、咲耶は四十八人に分身すると、一斉に踊り出した。
「すげ~!そっくりな子ばっかりだ!一体どうなってるんだ?」
「あれなに⁉すごいね⁉何かの撮影かな?」
まわりの人たちの視線が一斉に咲耶の方へ集まった。
「岩爺さま!さすがになくないですか?とめましょうよ~!」
隠れていたコンガがこっそり岩爺のそばにきていた。
「ふん……うるさいやつじゃのう。それより動ける用意はできておるな?」
岩爺は目がハートになりつつ、その声は厳戒態勢だった。
「はい。できてます……でも、分身に咲耶を撮影させてる場合じゃないと思うんですが……」
コンガはどうしても咲耶を止めたいようだ。
「この瞬間を逃すようじゃ、おじいちゃん失格じゃ!それに幸いハロウィンじゃ、妖怪が出ようが被害が出る前に倒せば問題あるまい。」
普通の人には見えない、ハロウィンに熱狂する人々の熱気や邪気が路地裏にあつまっている。
「コンガ、おぬしは人々の安全を確保せい!敵はわしがやっつける!」
忍び装束の岩爺はやる気満々だ。
「わかりましたよ。ライジョウシャスウチョウソクスウブンシン!」
コンガがそう唱えると、数えきれないほどの分身があらわれた。
「む……!くるぞ!」
岩爺が歴戦の忍者のごとくかっこよく構えたその時……。
「さらに盛り上げちゃうんだから!シシャソセイシュジュツチュウ!いでよ!」
ドゴォーーーン!
なんと!歌と踊りで気分が最高まで盛り上がった咲耶は、ハロウィンだからみんなを喜ばせたいと、とんでもないものを口寄せしてしまった……。
「が、岩爺さま……!あれは……」
大人数のコンガはそろって大きな口を開けてその眺めていた。
「う、うむ……さすがわしの孫、まさか、わしどころか先代すらなしえなかった百鬼夜行の口寄せをノリでしてしまうとはのぅ」
岩爺は驚きながらも、感心していた。
「いや、感心している場合じゃないでしょ!はやく咲耶を止めないと!踊っている場合じゃないし!」
コンガはあせっているようだ。
「よく見るのじゃ!咲耶の百鬼夜行が悪鬼悪霊だけ襲っておる!わしの出番はなかったようじゃな。さすが咲耶じゃ!」
岩爺は咲耶の成長ぶりに感動していた。
「いや、それどころじゃないでしょ!たくさんの人に見られちゃってますよ……」
忍びはあくまで忍び、普通の忍者の感覚で言えば、人前で目立つなどゆるされないのだ。
「わしにまかせろ……忘却の術!」
岩爺がそう唱えると、一瞬渋谷全体が闇におおわれた!忘却の術はその名の通り、術にかかった者の記憶をなくすのだ。
「岩爺さま、ちょっと咲耶のためだからって力技すぎないですか?」
コンガはため息を吐いた。
「ふふふ……咲耶のためじゃったらなんでもするぞい!」
岩爺は咲耶の成長っぷりにご満悦のようだ。咲耶といえば、分身の術に超大型口寄せの術を使い、すっかり疲れ果ててしまっていた。
「……。(いや、そういうことじゃないんですが……)」
コンガはそうツッコミをいれようと思ったが、もはやあきらめた。
「さて、動画の取れ高も充分じゃ!そろそろかえるぞい!」
岩爺は満足気にスマホを眺めた。
「岩爺さま、咲耶にもしばらくは忍ぶようにいってくださいよ!」
コンガは真剣な様子だ。
「わしはのぅコンガ、咲耶には好きなことをして生きて欲しいんじゃ。忍者をやめてもいいと思っておる」
岩爺も真剣に答えている。
「本気ですか岩爺さま。でも人前で忍術を使っていい理由にはなってませんが……とりあえず、明日の早朝シフトは変わってくださいね。店長命令です」
「う……うううむぅ」
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