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第39章 渡部の行方
影山は回答期限前に遂に依頼のあった、なぞなぞの答えを見出した。それでそれを早速渡部に報告しないといけないと思った。しかし、渡部はちょっと所用があると言っただけで、どこへ行くとも告げずに出掛けてしまっていた。
「刑事さん、非常に悪い予感がするんです」
「悪い予感?」
「渡部さんが戻って来ません」
「どちらに行かれたのですか?」
「ちょっと出掛けると言って出た切りです」
「出掛けたのはどれくらい前ですか?」
「そろそろ3時間になります」
「連絡はつきませんか?」
「携帯がつながらないのです」
「じゃあ心当たりを捜しますか?」
「はい」
影山は迂闊だったと反省した。しかし、渡部が出掛けたのは刑事たちが来る前だった。だから殺人事件が起きているとは知らなかった。しかも、その事件が相続に関係していて、平野の祖父の佐藤久伊が鍵になっているということは今判明したことだった。ただ佐藤久伊が関係しているとしても犯人の動機がまだ見えて来なかった。渡部の安否は刑事たちにお願いして自分はその動機を解くことに専念した方がいいと思った。その時だった。突然本間の携帯が鳴った。
「え? 容疑者がわかった! はい。はい。え? 波間?」
影山は本間の電話に耳をそばだてていた。
「犯人は波間さんですか?」
「容疑者は波間貞夫です。現場から逃亡する姿を近所の住人に目撃されています。そしてどうやらその波間がこの島に向かったらしいんです」
「ここへ?」
「はい」
「じゃあ渡部さんはその波間に呼び出されたとか?」
「いま本庁の職員は勿論のこと、こちらの所轄にも協力をお願いして捜索をしています。ですから、じきに見つかるとは思いますが」
影山は波間が容疑者だと聞かされて居ても立ってもいられなくなった。動機は彼が森萬家の子孫だということは想像がついた。しかし、それがどうして殺人に至るのかは不明だった。
第40章 波間と森萬
波間が二人を見失った翌朝、どうしてもあの神社の辺りが気になって、波間は再びそこを訪れてみた。現場百回とも言うし、あそこで彼らの足取りがわからなくなってしまったのだから、あそこから再び彼らを追うのが正解だと思ったのである。
先ずは神社の境内に何か手掛かりが残ってないかを調べた。すると境内から社に向かって数人の足跡が残っていた。その神社はかなりさびれていて人はまず寄りつかなそうな感じである。そうであればこの足跡は自分とあの二人のものだろうと思った。
しかし不思議なことがあった。夕べは暗くてよく見えなかったのだが、社の裏側の林には足跡が全く残ってはいなかった。そうだとすると咲森は林から逃亡してはいない。 波間はそれに気が付くと、境内から林を通らずにそこを抜けることの出来る出口を捜した。するとブロック塀が崩れていて、人がなんとか通れそうなくらいの隙間があいている所を見つけた。夕べは暗くてわからなかったのだろう。
(ここから咲森は逃げたんだ)
しかしそれならどこへ行ったのだろうと思った。それで波間はその隙間から外へ出てみた。すると目の前に戸建ての家があった。まさかここの庭にでも逃げ込んだのかと思った。それでその表札を見るとそこには、森萬という名前が表示されてあった。
―森萬―それはトキから届いた手紙に書かれてあった名字であった。
(どういうことだ?)
波間は事態がよくわからなかったが、とりあえず何かがわかるかもしれないと、その家のドアフォンを押した。しかし三度それを押しても、中からは誰も出て来なかった。それで仕方なく、その場を立ち去り、島に戻ろうと思ったのだった。
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