木製の杭(影山飛鳥シリーズ02)

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第10章 遺言書の公開  元町は取りだした封書を慎重に開封した。 「これは公正証書遺言書といいまして原本は公証役場に正本が保管されています。これはその写しです。それを私が大切にこうして封筒に入れておいたものです」 「つまり、法的に何の問題も無いと言う意味ですね」  影山がそう言った。 「はい。ここに書かれたことをそのまま読んでもどうかと思いますので、それをまとめて私の方からご説明します」  そう言って元町はその遺言書を開いた形で横に置き、話を始めた。 「トキさんの財産ですが、この屋敷をはじめ、土地、株、骨董品、貴金属、預貯金などを合わせると約60億円相当になります」  波間以外の関係者は真剣な表情でその話を聞いていた。 「それで、屋敷を含めた15億円相当を渡部さんに、それ以外の15億円相当が咲森さんに譲られます」 「15億か」  渡部が途端に口を開いた。 「それ以外の15億円というと」  それは咲森だった。 「具体的な目録は後でお渡しします。ただ、咲森さんはこの土地の人ではないので、この土地に関するものは極力除外してあります」  元町のその話を聞いて咲森はほっと一息をついた。 「それから平野さんと波間さんについては現金を5億円ずつお譲りします」 「現金5億!」  すると波間が大きな声を出した。咲森も物を15億円分もらうより、現金5億円の方が良いのではないかと思った。 「ちょっと待ってください」  その時、渡部が元町に言葉を掛けた。 「何です渡部さん」 「全員の相続金額を足すと40億にしかなりませんが」 「40億?」  波間がその話にすぐに食らいついた。 「私と咲森さんの分を合わせて30億、それから波間さんと平野さんの分が10億円。両者を足しても40億円にしかなりません。トキさんの遺産は60億ですから20億はどこに消えたのですか?」 「それを今からお話しします」  元町は渡部にそう言うと再び全員に向かって話を始めた。 「実はこの遺言に先立って、渡部さんと咲森さんに、なぞなぞが出されています」 「なぞなぞ?」  それは平野の言葉だったが、特に関心があるようには感じられなかった。 「そのなぞなぞは、こちらの渡部さんと咲森さんにだけ出されたもので、平野さんと波間さんにはそのようなものはありません」 「それでその、なぞなぞって?」  それは波間だった。 「そのなぞなぞがもし解ければ渡部さん、咲森さんにそれぞれ10億円ずつが上乗せされます」 「すると渡部さんと咲森さんは25億円ずつもらえるっていうことか」 「そうなります」 「でも、もしそれに正解出来なければどうなるの?」 「平野さん、波間さんに按分して分配されます」 「按分?」 「はい。もし渡部さんが正解出来なければ、渡辺さんに行くはずだった10億円が平野さんと波間さんに5億円ずつ分けられます。つまりお二人は元々あった5億円にそれが上乗せされ、10億円ずつの相続になります。更に咲森さんも正解出来なければ、平野さんに行くはずだった10億円が更に5億円ずつ分けられます。つまり、平野さんと波間さんは15億円ずつの相続になります」 「俺たちにも15億円かよ!」 「はい」 「すげ!」  波間が急に興奮し出した。 「で、そのなぞなぞってどういうの?」 「それは渡部さんと咲森さんに既に手紙で送られています」  元町のその言葉に渡部と咲森は頷いた。 「でも、そのなぞなぞに正解できるかどうかで俺たちのもらえる額が3倍にもなるんだから、関係ないってことはないよな」 「それももっともな話ですね」  それは平野だった。 「では私からお話ししますよ。ね、いいでしょ、咲森さん」  咲森はいきなり渡部に話を振られたので一瞬驚いた顔をしたが、すぐにうんと頷いた。 「問題は至って簡単です。『人、貝』という言葉からある人物の名前を言い当てるというものです」  渡部のその説明を咲森は黙って聞いていた。 「何、その『人、貝』って」  波間がよく聞こえなかったというような顔をして渡部に聞き返した。 「わかりません。ただ『人、貝』から人の名前を回答するんです」 「へえ」  すると波間が感心したような、或いは馬鹿にしたような声を上げた。 「俺にはさっぱりわからんね。と言うか、そんななぞなぞ答えられるのかな。もうこれは15億円もらったようなものだな」  波間はそう言って、平野の顔をにやけながら見た。しかし、平野は表情を変えずに黙って渡部を見ていた。 「元町さん、あのなぞなぞはいつまでに回答すればいいのですか?」  すると辺りを覆っていた波間の世界から離脱するように渡部は元町に話を振った。 「ええと、咲森さんは、こちらにはいつまで逗留されますか?」 「1週間くらいと思っていますが」 「それではこちらにご逗留されている間にお願いします。つまりそれが期限ということになりますが、渡部さんもそれでよろしいですか?」 「了解しました」  渡部はそう言うと大きく息を吐いて、これで話は終わりかと元町に尋ねた。 「それでは皆さん、これで解散ということでよろしいでしょうか」 「では実際の私たちの相続額の確定は1週間後ということですか?」  咲森は回答期限を再度元町に確認した。 「はい。1週間後の午後7時にここへまたお集まりください。その時に皆さんの相続額を確定致します。それまでは東京に戻られてもいいですし、こちらに逗留されてもどちらでも結構ですので」 「影山さん、あの問題解けそうですか?」  渡部は席を立ちながら、隣の影山に尋ねた。 「解かなければ始まらないですよね」
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