嘘でしょ?

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「こんにちはー!」  僕に気付くと、千代子さんは軽く会釈をした。 「今回お邪魔するのは小川千代子さんの畑ですー! よろしくお願いしますー!」 「はいはい、よろしくお願いします」  蛍光紫のダウンジャケットに、迷彩柄のズボン。どちらも泥が跳ねている。千代子さんは小柄だったが、背筋がピンと伸びていてシャキッとした印象だ。 「千代子さん、いきなりですみません。僕どうしても気になってしまって……あの、女性にご年齢聞くのは失礼だと思うんですが、いまおいくつなんですか……?」  僕が尋ねると、千代子さんは恥ずかしそうにポリポリと頬を掻いた。 「わたしゃね、この前誕生日じゃったんだけども……」  もじもじ、もじもじ、と二回ほど躊躇った後に千代子さんはニカッと笑った。 「92!」 「えっ、92!? ええ!? ぜーんぜん見えませんよ!」 「そーんな、褒めてもなーんも出ねーよ、兄ちゃん!」  素直に驚いていると、千代子さんは首と手を左右に振る。 「なにか若さを保つための秘訣とかあるんですか?」 「はぁ、ひけつぅ? 特に何もしてねーけどな。ここの畑で野菜作って、それ食べて……」 「わー! 白菜じゃないですかー! 僕大好きなんですよー!」  僕のリアクションに反応して、カメラは地面から生えている新鮮な白菜たちをアップで映した。 「ほーしたら早速取ってみよーかね。いまちょうど休憩しててよ、道具置いてきちまったから、ちょいと待ってな」  順調、順調。このままいけば、非常に自然な流れで収穫作業に移行できそうだ。
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