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「ほんわかふるさとクッキングー! はいっ! ということで、今月から始まる新番組です! この番組はあなたの住んでいる町までお邪魔して、その土地ならではのお料理を食べて食べて食べまくるという、なんとも贅沢な番組になっております。記念すべき一回目は、ここ阿武野村です! さぁ、いったいどんな素敵な出会いが待っているのでしょうか?」
「はい、一旦止めます」
掛け声とともに、僕は大きく息を吐いた。息が白い。気付けば、口の奥ではガチガチと歯が震えている。今週は温かいと聞いていたが、都心から離れたこの村は昼間というのに氷点下。これで天気が悪ければ最悪だったが、今のところロケの間は晴天が続く予報だ。現場のスタッフは誰も彼も慌ただしく、各々が次の撮影シーンのために奔走していた。
「岡田さーん」
そのとき、リポーターの僕のもとに、APの渡邊さんが小走りで近付いてきた。
「次、本編の撮影に移るんですけど、軽く流れだけ説明させてください」
渡邊さんは、左の拳にふーっと温かい息を吹きかけながら、反対の手に持っているメモを一瞥した。
「今回お邪魔するのは白菜農家の小川千代子さんの畑です。まず、千代子さんの畑で実際に白菜を収穫。そのまま野外でお料理していただくので、必要時お手伝いもしていただきながら、最後は実際に食してリポートと……ざっくりですが、そんな流れです」
この寒いのに、ずっと屋外で撮影か。
そこだけ解せなかったが、僕は「了解です」とだけ呟く。文句を言ってる時間を撮影に回して、可能であれば一分一秒でも早く撮影を終わらせたい。
「千代子さんですが、あちらでもう作業されてるみたいなんで、岡田さんからお声掛けしてもらって、場が温まってきたら収穫作業に移りましょう」
渡邊さんの視線の先には、白菜らしきものが生えている畑があって、その畑の中央で、おばあさんが直立してこちらを見つめている。おそらくあれが千代子さんだろう。
「じゃあ再開しまーす」
かれこれしているうちにスタンバイができたようで、再びカメラが回る。僕は千代子さんの畑に足を踏み入れた。
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