翌朝

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翌朝

ショックを受けなかった割には、昨日はあまり眠れなかった。布団の中であれこれ考えてしまった。 「リンリンリンリン!」 目覚まし時計の音が鳴り響く。気が付けば時刻は六時となっていた。 「・・・・・・本当は忍者への執着があるのかもしれないな」 寝不足で少し頭痛がする。眠い目を擦りながら妻が用意してくれたパンを食べていると、娘の咲楽(さくら)がバタバタと階段を駆け降りてきた。どうやら入学初日から寝坊したらしい。 「まずい! 入学初日から遅刻確定じゃん」 独り言を呟きながらパンを頬張る。 もう少し早く寝ればいいのにと思ったが、どうやら娘は夜型らしい。それに基本的には娘の人生に関与しないと決めている。 だが、一つだけ娘に要望を伝えたことがある。それがクノイチ界の名門校、私立クノイチ高知学園への入学だ。 しかし、親の期待とは反対に普通科に入学した。昔は「ママみたいなスゴいクノイチになるー!」と夢を語っていたのだが・・・・・・。 咲楽が幼き頃から多くの忍術を教えた。お陰様で小学生の時から大人顔向けの術を発揮し、将来は天下一のクノイチになると誰もが期待していた。だが、高校受験を控えた去年の冬、進路相談で一蹴されてしまった。 「お父さん、今時クノイチになりたい人なんていないよ。お母さんも引退して、スーパーでパートしてるし。私は普通の人生を歩もうと思う」 今考えると彼女の判断は正しかったのかもしれない。これから忍者業は衰退する。どうやら彼女には先見の目があるようだ。 ふと壁紙の絵を眺めた。僕と妻、そして咲楽がそれぞれ忍者として活躍している。幼き頃、娘が描いたものだ。今にも絵から飛び出そうなほど躍動感に溢れている。だが、どうやらこの未来は訪れないようだ。
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