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一の巻
甲賀シティ、某日。空は太陽がキラリと輝く晴天だ。
ここに、三人の世を忍ばないくノ一が、住宅街を歩いてワイワイ下校していた。
「それでね、お昼の時に満を持してそのお弁当箱を開けたのよ」
桃色の忍び装束にポニーテール、目立つことが大好きな咲耶が言えば。
「でっかいサンマが入ったお弁当よネ? どうなったアルか?」
山吹色の装束に二つのお団子にまとめた髪、ちょっぴり怖がりのシャオランが促す。
「それが……サンマのせいでフタがちゃんと閉まってなくて、もう大惨事! ベタベタをどうにかしなきゃで、みんなを驚かせるどこじゃなかったの!」
「アイヤー、残念だったアルな」
「ちな、味は大丈夫だったのソレ?」
紫色の装束に頭に生えた動物耳、何かとテキトーなネムが尋ねる。
「うーん、微妙。サンマに甘い汁がかかってたり……」
あーあ、とネムに呆れたように言われて、咲耶は改めてガクッと落ち込んだ。自分の理想通りに注目を浴びるのはなかなか難しい。
どこかに次なるネタはないものか――。
「ええっ、あれって飛行機?」
思わず指を差した。真っ青な空に浮かぶ白い機体。だいぶ低いところをゆらり、ゆらりと危なっかしく飛んでいる。今の今まで全く気づかなかった。
ネムのケモ耳がピクピクと動く。
「変なの。全然エンジンの音がしないし」
「というか、こっちに近づいてきてるアル? この街に空港なんてないヨ?」
ゆるゆる、と飛行機がさらに高度を下げる。プライベート用の小型機みたいだが、それでもおかしな状況だ。飛行機の影が三人のいる通学路に差しかかった。ジャンプすれば飛び乗れるくらい――もちろん忍者だからだが――近くを通り過ぎた機体には、ダイナミックな書体のアルファベット。『GAL』。
「ギャルだって。変なの」
「シャオランちゃん、ネムちゃん、行ってみよう」
事件の、非日常の臭いがする。咲耶はダダダダダッとミシンのような音を立ててダッシュした。「咲耶ー」というシャオランかネムの呼び声は、タイミングよく吹いた風に埋もれてほとんど消えそうだった。
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