一の巻

1/1
前へ
/13ページ
次へ

一の巻

 甲賀(こうか)シティ、某日。空は太陽がキラリと輝く晴天だ。  ここに、三人の世をくノ一が、住宅街を歩いてワイワイ下校していた。 「それでね、お昼の時に満を持してそのお弁当箱を開けたのよ」  桃色の忍び装束にポニーテール、目立つことが大好きな咲耶(さくや)が言えば。 「でっかいサンマが入ったお弁当よネ? どうなったアルか?」  山吹色の装束に二つのお団子にまとめた髪、ちょっぴり怖がりのシャオランが促す。 「それが……サンマのせいでフタがちゃんと閉まってなくて、もう大惨事! ベタベタをどうにかしなきゃで、みんなを驚かせるどこじゃなかったの!」 「アイヤー、残念だったアルな」 「ちな、味は大丈夫だったのソレ?」  紫色の装束に頭に生えた動物(ケモ)耳、何かとテキトーなネムが尋ねる。 「うーん、微妙。サンマに甘い汁がかかってたり……」  あーあ、とネムに呆れたように言われて、咲耶は改めてガクッと落ち込んだ。自分の理想通りに注目を浴びるのはなかなか難しい。  どこかに次なるネタはないものか――。 「ええっ、あれって飛行機?」  思わず指を差した。真っ青な空に浮かぶ白い機体。だいぶ低いところをゆらり、ゆらりと危なっかしく飛んでいる。今の今まで全く気づかなかった。  ネムのケモ耳がピクピクと動く。 「変なの。全然エンジンの音がしないし」 「というか、こっちに近づいてきてるアル? この街に空港なんてないヨ?」  ゆるゆる、と飛行機がさらに高度を下げる。プライベート用の小型機みたいだが、それでもおかしな状況だ。飛行機の影が三人のいる通学路に差しかかった。ジャンプすれば飛び乗れるくらい――もちろん忍者だからだが――近くを通り過ぎた機体には、ダイナミックな書体のアルファベット。『GAL』。 「ギャルだって。変なの」 「シャオランちゃん、ネムちゃん、行ってみよう」  事件の、非日常の臭いがする。咲耶はダダダダダッとミシンのような音を立ててダッシュした。「咲耶ー」というシャオランかネムの呼び声は、タイミングよく吹いた風に埋もれてほとんど消えそうだった。  
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加