第2話 置かれた境遇

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第2話 置かれた境遇

 モスグリネ王国。  その国は緑色を基調とした国づくりをしており、自然との調和を重視している。そのために、幻獣や精霊といった存在も多く見られる。  王都の北側には、精霊の森と呼ばれる聖域が存在しているくらいには、精霊というものへの信仰が存在しているのだ。  そのモスグリネ王国の王子であるペイル・モスグリネの元に、一人の女性が嫁いできた。  隣国であるアイヴォリー王国のマゼンダ侯爵家の長女であるロゼリア・マゼンダだった。  美しいまでの紅色の長髪をなびかせた彼女を、王国の民は歓喜の声で迎え入れた。  だが、それが続いたのは、彼女が第一子を産むまでだった。  緑色の髪を持つペイル王子と、紅色の髪を持つロゼリアの間に生まれた第一子は、なんと青色の髪を持っていた。  それがシアン・モスグリネである。  両親とはまったく違う髪色と持って生まれたがために、国民の中には不義を疑う声すら上がるほどだった。  それはもう、城の中も対応に追われるくらいの一大事だった。親であるペイルとロゼリアがまったく騒いでいないというのに、周りが勝手に騒ぎ立てて大騒動に発展していたのだ。  だが、この騒動は、とある人物の一声でぴたりと止んだ。  モスグリネ王国の商業組合の組合長であるケットシー。彼の声で騒動はひとまずの終焉を迎えたのだ。なにせ彼は幻獣である。幻獣のいうことであれば間違いないということで、鎮静化したというわけだった。  だが、それは再燃した。  二年後に、二人の間に第二子が誕生したのだ。  髪色は緑で、瞳が赤色の王子だった。モーフ・モスグリネと名付けられた、シアンの弟である。  第一王子であること、両親の特徴をしっかりと受け継いでいる事から、城の中の関心もすっかりモーフに集中してしまったのだった。  ――― 「うーん、今までの自分の境遇を思い出しましたが、ずいぶんとよろしくないですね」  思わず眉間にしわを寄せて考え込んでしまうシアン。その姿はとても5歳児には見えない姿だった。  その様子を見かねて、スミレは声を掛ける。 「はい。髪色はおろか瞳の色も両親にはまったくない青色ですから、それは国王陛下たちですらかなり疎ましく思われている状態です。とはいえ、離宮ではない王城内で過ごせているのは、ペイル様とロゼリア様が必死に訴えられたからです」 「はあ……。なまじ転生してしまったがゆえに、お嬢様たちに苦労をかけさせてしまっているとは……。なんともいたたまれないですね」  シアンは大きなため息をついて、両腕を組んで右足でタンタンと床を叩いている。その真剣に悩む姿は、とても幼児とは思えなかった。 「シアン様は、魔法の才能は素晴らしいものがあるのですけれどね。ご両親の魔法の腕前を引き継いでられます上に、シアン・アクアマリンの頃の魔力もすっかり戻ってらっしゃいますからね」 「ああ、それで体の中が騒がしかったのね」  シアンはそう言うと、両手を体の前に差し出す。そして、アクアマリン時代の得意とする魔法を発動させる。  すると、シアンの両手のひらから水がぼこぼこと湧き出していた。 「さすがはアクアマリン次期当主を約束されていただけはありますね。純粋に魔力だけであるなら、兄君のマーリン・アクアマリンを上回りますからね」 「でも、私は政に関してはさっぱりだったわ。それなら、やっぱりお兄様にお任せした方がいいというもの。あの時は仕方なかったのよ」  そうはいうものの、シアンはどこか寂しそうな表情をしていた。家を飛び出したり、禁法にまで手を出したりと、不義を働いてきたがゆえだろう。  だが、今はそういう時ではないとシアンは気持ちを切り替える。 「アクアマリン子爵家の事はとりあえず置いておいて、現状をどう変えていくかですね。この分だと、私の付き人はスミレだけですか」 「そうでございますね。ロゼリア様はちゃんとした教育をさせようとはしてらっしゃいますが、大臣あたりがシアン様を不義の子だと騒ぎ立てて教育を止めているようです」  スミレは頬に手を当てて大きなため息をついている。 「そうですか。やっぱり両親に似ていないというのは、それほどまでに疎まれるものなのですね」  くるりと窓へと向かって歩いていくシアン。  窓の外には緑にあふれたヴィフレアの街が広がっている。 「こんなに美しい国だというのに、人の心は、どこへ行っても変わらないのですね……」  こつりと、窓に額を当てるシアン。 「うん、まったくだね。酷いものだよ」  突然、部屋の中に声が響き渡る。 「ケットシー、一体何の用ですか」  スミレが声を張り上げる。  すると、部屋の中にゆらりと巨大な猫のが姿を現した。モスグリネ王国の中で堂々と商業組合の長として過ごす幻獣ケットシーである。 「はっはっはっ、そんなに警戒しないでくれないかクロノア。いや、今は厳罰の真っ只中のスミレくんだったね」  さすが幻獣。どこにでもふらりと現れる。普通に入城するのであれば手続きが面倒だが、幻獣であるからそんなものを平気で無視できるのだ。 「本来なら中立なのだけどね、ロゼリア君にはいろいろとお世話になっているから、ボクもできる限り手伝わせてもらおうじゃないか」  胡散臭い猫の言葉に、シアンの部屋の中の空気が一気に凍り付いたのだった。
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