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第3話 王家の食卓にて
モスグリネ王城内の食堂。
そこには既に席に着く者たちがいた。
「おはようございます、ロゼリア王太子妃殿下」
「おはよう。お義父様たちはまだいらっしゃらないのかしら」
食堂で準備をしている使用人と挨拶を交わすロゼリア。まだ国王夫妻が姿を見せていないことに、ふと疑問を感じていた。
「陛下でございましたら、既に食事を済ませて公務にあたってございます。王妃殿下の方でしたら、もうしばらくしたら来られるかと存じます」
「そう、ありがとう」
ロゼリアがお礼を言うと、使用人は静かに頭を下げて作業に戻る。
「おはようございます、ペイル様」
「おはよう、ロゼリア」
席にはすでにペイルが座っていた。
「あの子たちはまだですのね」
「まだ幼いからな。朝はぐっすり眠っているのだろう」
ペイルはくすくすと笑っている。
学園を卒業してからこの日で六年が経過している。ペイルはすっかり王太子として落ち着いており、来年になるだろう王位継承のための最後の準備段階に入っていた。
「そういえば子どもといえばだが、シアンに対する風当たりはまだまだ強いようだな。間違いなく俺たちの子だというのに、髪と目の色で早計に判断し過ぎだ」
「まったくですね」
ペイルの言葉に反応しながら、ロゼリアはその隣に座る。
「でも、言い分は分からなくはないですね。モスグリネは緑色の髪と目が一般的ですからね。ペイル様もそうでございますし、お義父様もお義母様もそうですものね」
「ああ、息子のモーフもそうだから、余計の事にシアンの姿が目立ってしまったな……」
ロゼリアは淡々と話してはいるが、ペイルは唇を軽く噛んでいる。自分の娘を悪く言われることに耐えられないのだ。
「それはそれとして、チェリシア嬢の言ったことは信じていいのだろうかな」
「えっと、どの言葉でしょうか」
ペイルが口に出すチェリシアの言葉の話。付き合いが長すぎるロゼリアには、一体どの話か特定ができなかった。
「シアンが生まれてからの話だ。赤と緑と青がどうたらこうたらっていう話だな」
「ああ、それでしたら『光の三原色』の話ですね」
「それだ、それ」
ロゼリアが思い出したのは、シアンが誕生してから行われたお祝いの席での話だ。マゼンダ商会の代表として席に参加したチェリシアが、シアンを見るなり言い出した話である。
「それは興味深い話ですね。私も混ぜてもらってもいいでしょうか」
「母上」
そこにちょうど王妃が姿を見せた。二人が話をしている姿を見て邪魔をしたくなかったらしいが、聞こえてきた話に興味を持ってつい割り込んでしまったようだった。
「面白い話でもないと思われますが……」
ロゼリアは話を打ち切ろうとしているが、
「いいえ、続けてちょうだい」
といった感じに、聞かせろオーラ全開で迫ってきていた。
「しょ、承知致しました」
さすがに義母の圧力には勝てず、ロゼリアはその時のチェリシアの話をする。
「まぁ、実に興味深い話ですね」
ところが、王妃はものすごく嬉しそうに反応をしていた。
「赤がロゼリアさん、緑がペイル、青がシアンちゃんね。それで、全部を混ぜ合わせると白い光になる。素晴らしいじゃありませんか」
両手をパチンと合わせて、これでもかという笑顔を見せる王妃。予想外の反応に、ロゼリアがものすごく戸惑っている。
「シアンちゃんの事をよく思っていない方は多いですからね。弟としてペイルと同じ緑髪のモーフが生まれたから、なおのこと疎ましく思っているみたいだもの。王妃としては許せませんよ」
王妃は現状にかなりご立腹のようだ。
「どことなく胡散臭い幻獣ケットシーですけれど、言うことは間違いありませんからね」
「胡散臭いとはひどいな、ロゼリアくんは」
ロゼリアが王妃に同調して喋った言葉に、どこからともなく反応があった。慌てて食堂の入口へ振り向くと、そこには先程話していた胡散臭い猫の姿があった。
「ケットシー?! どうしてここにいるのですか」
「なにって、商談に来たのだよ。ほら、シアンも連れてきたから、ボクも相席させてもらうよ」
シアンの手を引きながら、堂々と食卓に歩み寄ってくるケットシーである。何度見てもでかい猫だ。
「ほら、ご挨拶だよ、シアンくん」
あと少しのところで立ち止まると、シアンに挨拶を促すケットシー。
「おはようございます、おとうさま、おかあさま、おばあさま」
まだまだ少しろれつの怪しい口調で、淑女の挨拶をするシアン。まだ幼い子どもには難しいのか、ぶるぶると体が震えている。
「おはよう、シアン」
「おはよう、シアン。挨拶、頑張ったわね」
「えへへ」
5歳らしい可愛らしい反応を見せるシアンである。
しばらくすると、モーフも侍女に付き添われて食卓に姿を見せる。これで、国王以外の王族が揃ったことになる。
「ねこーっ」
「モーフくんかい? いいよ、毛を引き抜こうとしないのなら、いくらでも触っても構わないよ」
「わーい、ねこねこー」
食事を前にケットシーと戯れるモーフである。
十分にケットシーを堪能したモーフも席に着き、いつもに比べて賑やかな王家の食卓が始まろうとしていたのだった。
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