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第4話 ケットシーに連れられて
食事をしながら、シアンは家族の状況を確認する。
なにせシアン・アクアマリンとしての記憶が戻った事で、シアン・モスグリネとの記憶が混濁している。つまり、王女としてのここまでの記憶が引き出しづらくなっているのだ。
そんな状況なので、シアンはロゼリアたちの様子を5歳児らしく食事をしながらじっと見つめているのである。
(お嬢様はすっかり王太子妃としての風格が身に付いていますね。そもそも侯爵令嬢としての弁えもございますし、私が言うのもなんですが優秀でしたものね)
ちらちらとロゼリアに視線を送りながら観察をするシアン。だが、そのシアンを見つめる者が一人いた。
「ふふん、子どもというのはあれこれ興味を持つものだね」
そう、ケットシーだ。ロゼリアたちと話をしながら、シアンの事を観察していたのである。まったく食えない猫の幻獣だ。
あまりにぎょろっと見ているものだから、思わず身を引いてしまうシアンである。
「おい、ケットシー。シアンが怖がっているだろう。今は俺たちと話をしているのだから、よそ見をしないでくれないか」
「はーっはっはっ、すまないね。君たちの子どもだけにとても興味があるのだよ。いや、本当にそれだけだ」
ペイルに怒られても、マイペースなケットシー。本当に幻獣というのは気ままなものである。
「ああ、そうだ。今日はシアンくんを借りていってもいいかい? どうせ周りを気にしてあまり連れ出してはいないだろう?」
にこにことする胡散臭いケットシーは、ペイルたちに提案する。
すると、ペイルとロゼリアは顔を見合わせていた。
「まあそうだな。俺たちは仕事で忙しいものだから、侍女に任せっきりだものな。お前が相手をしてくれるのなら、まあ安全だろう」
「そうですね。シアン、いい子にしていられますか?」
ペイルと顔を見合わせながら頷いていたロゼリアが、シアンに問い掛けてくる。
「うん、シアン、いい子にしてるよ」
精一杯5歳児のふりをして返事をするシアン。その姿につい吹き出しそうになるケットシーである。
「失礼な奴だな。今日の交渉を台無しにする気か?」
「はっはっはっ、滅相もない。可愛らしさがついおかしくてね。うん、将来はきっと美人さんになるよ」
ペイルがぎろりと睨むと、ケットシーは適当にごまかしていた。
「うー、ぼくもぼくもーっ」
話がまとまったかと思えば、弟であるモーフがついて行こうとする。
「モーフ、あなたはだめよ。せめてシアンの年になるまでは我慢ね」
「むぅ、おかあさまのけちーっ」
モーフは頬を膨らませて拗ねてしまった。
食事をを終えたシアンは、スミレの手によって外出用の服に着替えさせられる。城の中での華美な服装ではなく、飾り気の少ない動きやすい服装だ。
王族の馬車に乗せられているので、扱い上は王女ということのようだが、人の態度だけが明らかに違っていた。
ケットシーに連れられてやってきたモスグリネの商業組合。ケットシーの部屋に通されたシアンとスミレは、ようやく一息をついているようだった。
「視線が痛いですね……」
「まあ仕方ないね。君は両親とは違い過ぎる。どちらかに似ていればよかっただろうが、どちらとも違うとなれば、人はそういう扱いをするものだよ」
ケットシーはそう言いながら、果物の果汁を差し出してくる。
「ロゼリアくんの故郷の果汁だよ」
「お嬢様の……。そういえばマゼンダ領は果物の産地でしたね」
コップに入った果汁をちびちびと飲むシアンである。
「ところで、スミレ。人間生活はどうだい?」
「それほど悪くはありませんね。ただ、シアン様を取り巻く環境に関しては辟易していますけれどもね」
すました顔をしていたかと思えば、眉間にしわを寄せて苦い顔になるスミレ。
「おやおや……。女の子にそんな表情をさせるとは、困ったものだね」
言葉とは裏腹に、笑顔を崩さないケットシーである。
その笑顔に、スミレはついつい険しい表情を向けてしまう。
「おお怖いね。でも、それをどうにかするのが君の課題なんじゃないのかな。まったく、誰のおかげで幻獣に戻れる道が残ったと思っているんだ」
「うぐぐ……」
ケットシーの言葉に反論できないスミレなのであった。どうやら、スミレにはケットシーへの借りがあるようである。
「もしかして、私が転生できた理由って……クロノアが?」
コップをことりとテーブルに置くシアン。スミレに向ける表情は5歳児らしいものだった。
「そうさ、そのもしかしてなのさ。元々君の未練が大きかったのもあるのだけどね。そこにクロノアが干渉して、シアンくんの魂が消滅するのを防いだんだ。しかも、よりによってそれをロゼリアくんの最初の子どもに押し込むものだから、父親である神獣クロノスの怒りを買ったというわけさ」
「そうなのですね……」
思わず視線を逸らすスミレである。
「で、クロノスによって力を全部はく奪されそうになったのを、ボクが預かるという形で阻止したのさ。感謝してもらいたいものだよ、はっはっはっ」
両手を腰に当てて仰け反るようにして笑うケットシーである。これにはシアンは冷たい視線を向けざるを得なかった。
「はっはっはっ、そんな目で見ないでおくれ。ここに連れてきたのは理由があるんだからね」
ウィンクしながらじっと顔を寄せてくるケットシー。まったくこの猫は、一体何を企んでいるのだろうか。
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