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第63話 学園の平穏な日々
ペシエラの見せた活躍は、学園の中でその日のうちに広まっていた。
「すまなかったな、昨日は」
クライが深々と頭を下げている。ペシエラが現れたことを受けて、ようやく昨日のことを反省しているのである。
「許しませんよ。何でもかんでもみんな自分たちと同じと思わないで下さいね」
対するココナスは、本当に許す気がないようだった。へとへとになった状態でも、クライに無理やり剣の打ち合いをさせられていたのだから、そりゃまあそうだろう。昨日のココナスは昼食を食べ損ねるくらいに寝込んでいたのだ。
シアンとブランチェスカも回復には時間がかかったものの、プルネはずいぶんと回復が早かった。半分が元暗殺者、半分がドラゴンだから、人とは違う部分があるのだろう。
「ああ、王妃様ってかっこよかったですね。あの教官をあんなに簡単に倒してしまうだなんて」
「本当ですね。あの動きづらい格好であっさり倒してしまうんですもの。武術大会で活躍されていたというのは本当でしたのね」
ブランチェスカとプルネは、ペシエラの戦う姿にすっかり惚れ込んでしまっているようだ。ただ一人ペシエラの学生時代の姿を知るシアンは、衰えていない様子に驚いていた。
(公務で忙しいはずなのですけれどね、さすがはペシエラ様といったところでしょうかね)
気が付けば両腕を組んでうんうんと頷いているシアンなのであった。
剣術の講義でいきなり驚かされたものだが、これで学園生活はしばらくは平穏だろう。シアンたちはそう考えたのだった。
そして、ひと月が流れる。
剣術の講義にもだいぶ慣れてきたシアンたちは、あまり疲れるようなこともなくなってきた。
そして、予想通りなのか予想外なのか分からないけれど、プルネがめきめきと剣の才能を見せていた。元々は剣というよりも暗器の扱いに慣れているはずなのだが、その延長線上なのか剣の腕前はシアンやブランチェスカよりも圧倒的に上達していた。
「はいっ!」
「うわっ!」
講義の最中の打ち合い稽古で、プルネはココナスとの打ち合いで圧倒的な差を見せつけて、あっさりとココナスの剣を弾き飛ばしていた。
「さすがは、王妃様の実家のコーラル家ですね。確か血縁はないと聞いていましたが、腕前は大したものですね」
「ありがとうございます」
頭を下げるプルネである。
「へえ、大したもんだな。じゃあ、俺と今度は打ち合ってもらえるかな」
そこへやって来たのはクライだった。
騎士団の一員を務める親を持つ脳筋系男子ミドナイト男爵令息、それがクライである。
「いいですよ。なんだか剣が楽しくなってきましたから、強い方と戦ってみたいのです」
プルネの様子に、シアンとブランチェスカは苦笑いである。
シアンたちが見守る中、プルネとクライの打ち合いが始まる。クライが様子を見ていると、プルネから攻撃を仕掛ける。
しかし、うまくいなされたり止められたりと、プルネの攻撃はまったくもってクライには通じなかった。
「うん、これくらいだな」
「ま、まだまだ……」
クライが打ち合いを止めるのだが、プルネはまだやる気のようだ。
「やめておけ。剣を持つ手が震えているから、次振り回すと剣がすっぽ抜けるぞ。友人にけがをさせるわけにもいかないだろう?」
「ううう、悔しいわ」
プルネは頬を膨らませていた。本当に悔しそうだった。
昼食を挟んで午後は魔法の講義。
魔法となると今度はシアンが圧倒的な実力を見せつけている。さすがは元・魔法の名門アクアマリン子爵家の令嬢である。ただでさえ魔法が得意だというのに、母親のロゼリアの影響でもともと高かった魔力がさらに高まっているので他の追随を許さないレベルである。
「うう……。剣は上達したけれど、魔法はシアン様に敵う気がまったくしない」
愚痴るプルネだが、最初の頃に比べればだいぶ闇属性を操れるようになっていた。ただ、プルネの魔力量を考えれば、まだまだといったところである。
「プルネ様のレベルでそんなことを言われたら、私などどうなるのですか……」
目の前のプルネの嘆きに、困った表情を見せるブランチェスカである。彼女の土魔法はまだまだ制御が甘く、形の維持があまり続かないようだった。
「防御用の土の壁ですよね。大きいのを作ろうとしてもすぐに崩れていますね」
「家の壁をイメージしているのですが、どうにも甘いみたいでして……」
困った顔のブランチェスカに、シアンはちょっと手を貸してみる。
「おそらくブランチェスカは魔力がうまく扱えていないだけですよ。見ている限り、壁のイメージはちゃんとできていますから、あとはいかに魔力を込められるかです」
「そうなのですね……」
悲しそうな表情をするものだから、シアンはブランチェスカにちょっとばかり手助けをしてみる。
「シアン様?」
「いいから手を離さないで下さい。体の中の魔力の流れ、これをいかに感じ取ってうまく誘導するか、これが大事なんですから」
シアンはブランチェスカの両手を握り、自分の中の魔力を誘導してブランチェスカとの間で循環させる。
「これが、魔力の流れです。うまく感じ取って、手の先から放出する感じでやってみましょう」
「分かりました」
ブランチェスカはアドバイスを受けて、もう一度土の壁を出現させる。こうして出現させた土の壁は、ちゃんと形がしばらくの間維持されていた。
「や、やりましたよ」
「ええ、その調子です。あとは訓練あるのみですね」
「ありがとうございます」
こうして、学園生活を通じて三人はその腕前を少しずつ伸ばしているようなのだった。
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