第2夜「颯斗」

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第2夜「颯斗」

颯斗(はやと)に出会ったのは 実は僕が最初だった。 風が強く吹き荒れるある日の夜、 冷たい風と共にぶらりと現れた彼から受ける印象は 「無気力」そのものだった。 「こんばんは」 「……」 「こちらへどうぞ」 「……」 無言でカウンターに腰を下ろした彼は そのままぼんやりと動かなくなった。 …疲れているんだろうか? それにしてはその眼差しの強いこと… そして… 「綺麗な髪、ですね」 長めのその髪は目の覚めるような青色だった。 「…どうも」 鋭い眼差しに少し柔らかな光が灯ったような揺らぎが 見えたような気がした。 髪の色に触れるのは嫌ではなかったらしい(笑) 「何か飲まれますか?」 小さく頷いた彼は再び無気力な空気感に戻ると 「何でも……あ」 「?何でしょう??」 「甘っちい味は苦手なんで」 (笑)面白い言い方だなあ… 「かしこまりました。アレルギーは何かありますか?」 「…ナッツ…」 「承知しました。お通しは出しても?」 こくりと頷いた彼に僕は本日のお通しである 若菜ママのカポナータの入ったココットを置いた。 彼から離れてカウンターに背を向けた僕の背中に 「…うめえ…」と小さく呟く彼の声が聞こえた。 さて…と。 甘っちい味ではないカクテル。 アルコールに強いかどうかはわからないから… ならば… 僕は棚からカンパリの瓶を取り出し、 冷蔵庫から冷えたグレープフルーツを出して 半分にカットしてスクイーザーで絞った。 ロンググラスに氷を入れて カンパリとグレープフルーツの搾り汁を注いで ゆっくり、そしてしっかりステアする。 そこに冷やしたトニックウォーターを 氷に当たらないように静かに注いで軽くステアして… 「お待たせしました。『スプモーニ』です」 「スプモーニ…」 澄んだ赤色のカクテルを怪訝(けげん)そうに 見つめた彼は、恐る恐るスプモーニのストローに 口をつけた。 見る見るうちにその眼差しは大きく見開かれて… 「うま…!」 「ありがとうございます」 それっきり言葉も発することなく スプモーニをごくごくと飲んだこの青年と この後深くかかわることになるとは この時の僕には想像もつかないことだった。 スプモーニのカクテル言葉 『愛嬌(あいきょう)
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