しあわせとはなんだろう

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しあわせとはなんだろう

幸せになりたかった。 母は貧しくて苦労して育ったから、 いつも 「上を目指しなさい。 貧しさから抜け出すには、 男次第なのよ、女にとってはね。 だから、素直な守りたくなるような女性になるの。 微笑みを絶やさず、穏やかそうにふるまうの。 男性と張り合うようなことはしてはダメよ。」 そう言っていた。 父は私立の大学教授だった。いわゆる一流難関大学ではなかったが、古くからある、家柄の良い家庭の子女が多い大学だった。 だから、そこで彼氏を、将来の伴侶を見つければ良いと思った。 夫から声を掛けられて、彼女になって結婚できた。 思い通りになったと思った。 たとえ他に女がいても妻は私。 これで、豊かに幸せになれるはずだった。 でも、気がつけば、私の周りには誰も居なくなってしまった。 両親も亡くなり、子どもたちにもそっぽを向かれ、夫は外に女を作り好き放題。 頼りの義母でさえ、私を捨て去ろうとしているように思われる。 しあわせとは、なんなのだろう。 私が間違っていたのだろうか。 母の教えの通りにしてきたのに。 手本だと思っていた義母も、近頃では年老いて思い通りにならず、イライラしているようだ。 義母は人に注目され、いつも女王の様に振る舞っていた。夫である義父でさえ、思い通りに繰りながら。 しかし、義父は認知症が進み、外出もままならない。会話もかみ合わない。 容姿は衰え、いくら着飾っても以前の様に注目されることがなくなってきた。それが、イライラの元なのだ。 反対に、義兄一家はとても幸せそうだ。 小学生の時は不登校になりそうだった愛実も、年々美しく魅力的な女性に成長してきた。 決して美人ではないのに、落ち着きと品があり、会えば皆彼女が好きになってしまう。それは、義姉優雅と同じだ。 義姉の優雅は、美しい人だが決して弱々しい手弱女ではなかった。 凜として芯の強さを感じさせる美しさ。 義母は、その強さを嫌ったのだ。 義姉の優雅は、決して義母の言いなりにはならなかった。どんなに冷たくされ、虐められても、諦めず自分の出来ることをやって今の家庭を築いた。 私とは正反対に、義姉の優雅の周りにはいつも人が集まるようになり、笑顔が絶えない。 義兄も義姉も娘の愛実も、皆幸せそうだ。 私も、人前ではいつも微笑んでいる。 だが、それは作り笑いなのだ。 人は、幸せだから微笑むのではない、 微笑むから幸せになれるのだという。 なのに、私は微笑みを絶やさずにいるようつとめているのに、どうして幸せになれないのだろう? 寿人がある時言った。 お母様は、家の中では不機嫌そうに金切り声で、お手伝いさんやシッターさんを怒ってばかりいるのに、外に出たらニコニコするんだね。なんで? 外で笑えるなら、家に居るときも笑っていてよ。お母様の怒鳴り声や金切り声は聞きたくないよ。 伯母様は、いつでも家の中でも外でも変わらないよ。周りの人を怒ったりしないし、誰にでも優しいし“ありがとう”って言うよ。 伯父様も愛実お姉さんもそうだよ。 どうして、僕の家の人はいつも怒ってばかりいるの? それはね、寿人さん、ほんとうのあるべき状態でないからなのよ。 お父様が社長であなたが、寿人さんが跡継ぎであるべきなの。 それなのに、お義兄さまが社長になられて、愛実が跡継ぎになろうとしてる。だから、お祖母さまも私もあるべき姿に戻そうとして頑張っているのに、上手くいかないからイライラしてしまうのよ。わかるでしょ。 皆、お祖母さまや私に力を貸すべきなのに、それをしないから叱ってるの。 それって、誰が決めたの、お母さま。 それは…もちろんお祖母さまよ。 この家を支え栄えさせてきたのは、 お祖母さまのお力だもの。 お祖母さまは、お父様と私を跡継ぎにと言って下さっていたのよ。だから、 みんな社員の人たちは、お父様を盛り立てるようにするべきなの。それなのに、お義兄さまが社長になってから全てがおかしくなってしまったのよ。 だから、正さなくてはいけないの、 分かるわね寿人さん。 それって、誰のため? それで、みんながしあわせになるの? もしそうなら、僕も頑張るよ。 でも、違うよね。 そうじゃないよね。 自分の為だよね。 お父様もお母さまもお姉様たちも、 自分のことしか考えないよね。 僕がどういう気持ちでいるかとか、 社員や株主の人たちがどう考えているかとか、考えたこと、ある? えっ…それは… いつも考えているわ。だから、ちゃんとするように叱るんじゃない。 伯母様や伯父様は違うよ。 間違った時や狡いことをしようとした時は叱られるけど、怒鳴ったりはしない。 それに、いつも“ありがとう”“おつかれさまです”ってみんなに感謝して、褒めるよ。 僕のことも褒めてくれる。 頑張ったね。昨日出来なかったことが出来るようになったねって。 人と比べるんじゃなくて、昨日より成長出来たことを見つけて褒めてくれる。そして、自分でもそうするんだよって教えてくれた。 だから、伯父様が社長になったんじゃないの? 人が集まるようになったんじゃないの? 僕、お父様に褒められたことがないよ。お母さまにも。 気に入らないと、直ぐ怒鳴るでしょ。 周りに誰も居なくなるのは、当たり前だよ。
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