張りぼての僕

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張りぼての僕

僕の父は、伯父と兄弟なのか?と思うくらい性格も考え方も顔も色々違う。 専務取締役という重職についてはいるが、 余り仕事熱心とは、僕から見ても思えない。 表立つ、目立つパフォーマンスは得意というかそつなくこなすけれど (準備は部下がしてくれるから) 社長の伯父のように、コツコツと真面目に誠実に仕事に取り組んではいないように思える。 僕の耳にさえ 「社長がいるからこの会社はもっているんだ。専務がもし社長になったら、もうダメかもしれない。」 そういう声が聞こえてくるんだ。 社長をしている伯父は、父ではなく 祖父(僕からしたら曾祖父)から、 幼い頃から厳しく、上に立つ者の心得を叩き込まれたようだ。 だが、父は祖母に溺愛されて、 甘やかされて育ったようだ。 良く言えば自由な考えの持ち主だが、 要は、人の意見や立場やそういう周りのことより、自分を優先するワガママな人なのだ。 だから、家の中でもそれを発揮して 母や姉に命令口調で物を言うから、時々怒鳴りあいの大ゲンカになる。 そういう時、僕やお手伝いさんたちはすっとその場から逃げるように居なくなるんだけど。 僕もその血を受け継いでいるからか、 障害があるせいなのか分からないが、 物を深く考え、それを人に伝える事が上手く出来ないから、イライラして 爆発して仕舞うことがある。 だからきっと父もそうなんだろう、 と気持ちは分かる気がする。 今の母は、僕に学歴を付けて、社長にすることだけが生きがいのように見える。 父も母も姉も、外から見たら裕福で 幸せそうに見えるのかもしれない。 でも、ほんとうの気持を語り合える人がいなくて、人より上に立つ事ばかり考えて、それって幸せなんだろうかって、時々思う。 母は、ほんとうは社長夫人と呼ばれたいのに、父は、責任を負いたくないから社長にはならず、面倒なことは部下や社長に任せて、自分は遣りたい仕事だけを選んでやっているらしい。 だから、僕を社長にして、せめて社長の母になりたいのだ。 でも、僕にはそんな能力はない。 というより、合ってないのだ。 障害があっても、その人だけが持っている能力があって、それを伸ばしていけば、幸せに生きる方法はあるといわれているのに。 でも、母は、それをしてくれない。 普通ではないことを、母も薄々分かっているだろうに、その事は隠して、 僕を“優秀な跡継ぎ”に見せることに躍起になっている。 僕は、張りぼてだ。中身なんかない。 有名校に通っていても、所詮裏口入学なんだ。 僕の通ってる学校は、小学校は男女一緒だけど、中学からは男女別になる。 同級生の中には、受験して国立大学とかもっと上の大学を目指している者もいる。そういう人は、中学から特別進学コースというクラスに入る。 勉強の内容も同じ学校でも全然違う。 僕はそのまま内部進学で大学に進むつもりだから、普通コースだ。 それでも難しくて落ちこぼれている。 それなりに有名な、大学受験すれば 難関大学に入る大学だから、箔は付く。 でも、僕は受験をした事がないし (面接だけで小学校から入った)、 成績もいつもビリだ。 でも、作文とか工作とか提出物は結構良い点というか、優良賞とか佳作とか貰うことが多い。 なぜって、家で母とかお手伝いさんとか家庭教師が手伝ってくれるから。 小さい時は、それが当たり前だと思ってた。 でも、鈍感な僕でも、ある時それがズルだと気づいた。 僕は、最優秀賞を取ったことがない。だからある時母に尋ねたんだ。 「お母様、僕の作品はなんで最優秀賞じゃないんだろう?僕の方が良いと思うのに…」すると、母は、 「寿君、ごめんなさいね。それは、 お母様が先生に『学校内だけにして下さい』ってお願いしてるからなの。 最優秀賞になると、県の作品展とか外に出すようになるでしょ。 それか、皆の前で朗読や発表をするとか。 寿君はそういうの嫌いでしょ。 だから、最優秀賞でなくてもガッカリしないで。」 その時、分かった。 皆は自分の力だけで作品を出してるんだ。 確かに、人前で発表したりするのは苦手だし嫌いだけど、それだけじゃなくて、学校の外の作品展に出せば、手伝ってもらってることがバレるからなんだ。 なんで友だちだった子が、馬鹿にしたような目をして離れていったか分かった。 小学校低学年の頃は、誕生日会やクリスマスや花火に友だちを呼んでご馳走やお菓子を振る舞うから、友だちがたくさん居た(つもり)けど、だんだんいなくなったのは、そういうことなんだ。 もちろん、話が合わなくなったのもあるけど、僕がズルしているって同級生も分かってたんだ。 それに気が付いて、ある時期、そう 中学生になってから、手伝ってもらうのを拒んだり、提出物を出さないで 反抗したりすることが続いた。 提出物があることを黙っていたことが分かった時、僕を叱った事がない母が般若のように怒り狂った。 「あなたのために、お母様がどんなに心を砕いているか分からないの!」 僕は黙った。そして、 (それは僕のためではなくて、お母様の自己満足のためでしょ。僕がやって欲しいことは、ありのままの僕をちゃんと見てくれることだよ。)と心の中で呟いた。
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