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しあわせのかたち
僕が張りぼてで何の取り柄もない、
しかも障害者で社長になどなれる器でないと世間にバレたら、お母様は僕を捨てるんだろうか。
僕は、ただありのままの僕を受け入れて欲しいだけなんだ。
贅沢をしたいわけでもないし、大きな家も要らない。都会に住みたいとも思わない。人混みは疲れるから嫌いだ。
父が専務のくせに気ままにしていても大丈夫なくらい(伯父がしっかりしているからなのだが)ちゃんとした会社だから、万が一僕が社長に納まっても、変なことをしない限り会社は大丈夫なのかもしれない。
そのように、曾祖父や伯父が人財を育成することに力を注いできたから。
でも、そうなったとして、
母は、何がしたいのだろう?
社長の母となってしたい事があるのだろうか。
僕には、分からない。
伯母(義姉)に勝ったという一時の満足、それ以外に何かあるのだろうか。
祖母のように、パーティーやお茶会やそういう華やかな世界でもてはやされたいのだろうか。
祖母は確かに若い頃は大層美しく、
社交界の華だったようだ。
人脈も広く、会社の陰の実力者だったという。祖父は、祖母の言いなりだったようで、贅沢の限りを尽くしていた。
しかし、そのせいで会社は少し傾きかけていたそうだ。
祖父が退いて伯父が社長を継いでから堅実な経営と贅沢を慎んだから立ち直ったのだそうだ。
その影には、語学に堪能な伯母の力も大きかったという。
海外にも販路を広げることが出来たからだ。
もし僕が形だけの社長についても、
伯母はきっと母に負けたとも何とも思わないだろう。
なぜなら、伯母は社長夫人として、
ただ遊んで暮らしていたのではないからだ。
伯父と伯母が結婚した当初、子どもが出来ないことを祖父母に責められ、
家に引きこもっていた時期があるそうだ。
精神科にもかかって治療するほどだったようだ。
その頃、母は女の子とはいえ姉たちを次々と産んで、勝ち誇った気分だったかもしれない。
しかし、そういう時にあっても、伯母はコツコツと出来ることをやっていたのだ。
繋がりの出来た人と手紙のやりとりをしたり、語学力が錆び付かないよう研鑽したり。
決して、家にいて寝てばかりいたわけではないのだ。
だから、愛実姉さんが産まれて、伯父が社長に就任すると、直ぐに社長夫人として活動することができたのだ。
その範囲は経済界を越えて広がり、様々なボランティア活動に忙しいらしい。
だから、伯母は社長夫人でなくなっても、今と何も変わらないのだと思う。
伯母と交流のある人は、伯母が大企業の社長夫人だから付き合っているのではなく、その人柄に惚れ込んでいるからなのだから。
お母様、もう無駄な闘いは止めて、
身の丈にあった“しあわせのかたち”を探さないか。
僕から見ると、お母様もお父様も姉さん達もちっともしあわせそうに見えないんだよ。
お母様は、僕と一緒にキチンと日本語を勉強するところから始めてみないかい?
そうしたら、ちゃんと自分の考えもまとまって、思ってることも伝えられるようになるから、イライラすることもなくなる。
人間は言葉で物を考えるから、語彙が貧弱だと考え方も雑になるんだって。
もう、肩肘張るのは止めて、楽になろうよ。お父様が専務でなくなっても、伯父様達は優しいから僕たち家族を見捨てたりしないと思うよ。
会社はきっと、愛実姉さんか、愛実姉さんの旦那様になる人が継いでくれると思う。
それが、社員の皆も、僕たち家族も皆が幸せになる道だと思うんだ。
もう、誰か他の人に勝つことを考えるのは止めようよ。叔母様のように、
1㎜でも良いから、昨日の自分に勝てる人になりたい。
昨日の自分より成長できる、それが
本当の“しあわせのかたち”なんじゃないかなと思うんだ。
世界には、明日の命も分からない、
食べる物も住むところもなくて、
怯えて暮らしている人もいるんだ。
家があって、食べる物にも困らない。
爆弾が落ちてくる心配もない。
この国に生まれただけで、ありがたいことなのよって、叔母様がいつか言ってたよ。
だから、もうお手伝いさんや周りの人に文句をいったり八つ当たりするのは止めて、静かにできることをやって穏やかに暮らそうよ。
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