ゆきがっせん、ゆきがっせん。

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 ***  藤之助少年は、取り立てて特筆するべきところない人物だった。髪の毛がちょっと茶色っぽくて(多分地毛なんだろう)、眼鏡をかけてるってことくらいだろうか。  通っていた小学校は同じだけど、クラスは同じじゃない。だから正直、話す機会はそんなになかった。ただ自治会つーの?それは同じだったものだから、マンションがらみとか、地域の人達とのイベントでは話す機会があったかな。  それと当然、通学班も一緒だったから、朝は毎日顔を合わせてた。  で、彼が引っ越してきたのが十二月の頭くらいだったんだけど……一月の、お正月を過ぎた頃かな。  朝の通学班での待ち合わせの時間、エレベーターホールのロビーで彼が声をかけてきたんだ。 「今年の冬は、ちょっと寒くなると思う」 「え、そうなん?」 「うん。パパがそう言ってるから間違いないよ」  藤之助は、にこにこしながら僕に言った。俺はてっきり、お父さんが気象予報士をやっているのかと思ったのだけれど、そういうわけではないらしい。  彼のお父さんとお母さんは両方働いているけれど、その職業は秘密なんだそうだ。  ちなみに僕は、さっき言った通り彼の両親とも一度だけ顔を合わせたことがある。お父さんはクマみたいな大男で、日本人にしては随分もっさりとした髭を生やしてるんだなと思った記憶があった。逆にお母さんは色が真っ白で髪の長い綺麗な女の人で、なんと着物姿でのあいさつだったと記憶している。紫色の着物に、緑色っぽい帯がすごく綺麗で似合っていたっていうのも。 「天気予報の人は、暖冬だって言ってた気がするけど」  俺が反論すると、“そういうのはうそっぱちさ”と彼は唇を尖らせた。 「パパとママが言っていることの方がずっと正しいんだ。そして、パパとママはぼくが頼んだら何でも聞いてくれるんだよ。ていうか、二人ともぼくのことが大好きすぎて、元居たおうちを追い出されちゃったんだ。ぼくがやってほしいって言ったことをなんでもしてくれるから、お祖父ちゃんとお祖母ちゃんが甘やかしすぎだって怒ったみたい。別にいいのにね。だって二人ともぼくのパパとママなんだもの。ぼくに甘いのは普通のことでしょ?」 「ま、まあそうだな……」
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