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そんな今井君の最終出社日に、会社の皆から送別の品を送った。 新入社員の女の子が選んでくれたネクタイはちっとも今井君に似合っていなかった。 付き合いが悪い今井君の趣味なんてあの子は分からないから無難なものを選んだんだろう。 帰り際、二人で話をした。 私は今朝、通勤途中の花屋で買った小さなブーケを今井君に渡した。 今井君が柄にもなく花が好きだと知っていたから。 案の定、彼はとても喜んでくれた。 他愛もない話の最中に、 「きっともう会わないんだろうな。社のみんなと飲むからおいでよって言っても来ないだろうしな」 私は笑って言った。 「そうだね。僕、連絡なかなか返さないタイプだし、付き合い悪いから…そうだ。僕の妻の連絡先を教えるよ」 今井君は唐突に言った。 「なぜ?」 私が戸惑うと今井君はひょうひょうと言った。 「妻は僕と違って社交的だから、まめに連絡するだろうし。それに妻は桜井さんのファンなんだ。僕があまりにも妻に桜井さんの話をするから会いたいって言っていた」 今井君は早速、奥さんの連絡先を私に送信した。 そのアイコンは桜の木の下で家族三人が笑っている写真だった。 「僕もまた会いたかったから。これならきっと、また会えるよ」 そう言って今井君は軽やかに去って行った。 その日の夜、今井君の妻からメッセージが来た。 「お花ありがとうございます!大切に飾りますね」 その後に、今井君が私のことをどんなに尊敬しているか、素敵な人だと話しているか…が長々と書いてある。 そんな風に人をなかなか褒めない人だから…とも。 でも、そんな言葉はちっとも嬉しくなかった。 私はあの花束に言えない気持ちを無意識に込めていたのだと気づいたから。 「すごく好きだった。ありがとう」 その思いが今井君の手から別の人に渡されてしまったような悲しみと何より嫉妬があった。 決して言葉に出来ない気持ちが、別の誰かの手元にある。 私はそのメッセージに返事をしなかった。 そして今井君と今井君の奥さん、二人の連絡先を消した。
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