ポケットにすむお嫁さん

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 私は彼のお嫁さん。  とってもとっても小さいから、彼のポケットにすんでるの。  でもね、困ったことに、私はポケットからは出られないの。  だから、料理を作ってあげることもできないし、掃除や洗濯だってできない。  大きくなりたいなあ。大きくなったら、きっとあなたの役に立てるのに。 「でも君はいつも、僕に忘れ物を届けてくれるよ」  そうなの。彼はポケットの中に色んなものを入れる癖がある。だから忘れ物が多い。  ポケットの中には別のポケットへのトンネルがあって、ポケットだったらどこへでも行けるの。だから、彼が忘れ物をしたときには、私がポケットからポケットにさがしにいくの。  ポケットの中のさがしものは、私の得意分野なの。小さいからできることが少ない私だけれど、小さいからできることもたくさんあるわ。 「今日もありがとう。僕のかわいい奥さん」 「ふふ、どういたしまして」  「大きくなりたい」って夢はやっぱりたまには見るけれど、あなたがそうやって優しい言葉をかけてくれるから、小さいままでもがんばれるわ。
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