エピソード3.

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エピソード3.

思わず速水さんと2人で固まった…が、どこかの部屋でアレがはじまっているだけだと、私は自分の部屋のドアに手を掛けた。 …あらら。 開いてる…? 「あっ…はぁぁぁぁん…!」 …まさか。 アノ最中の声は、私の部屋の中から聞こえてくる…。 ちょっと…ちょっとちょっと…! いったい誰が、私の部屋をラブホ代わりにしてるわけ?? 思い切って突入して。 …あっという間に腰を抜かして出てきた…。 「…大丈夫か?」 速水さんと目が合って、なぜか私はもう一度部屋に入った。 …が、やっぱりすぐに出てきてしまった。 「…ちょっと、このまま駅に戻りましょう」 「…」 ずんずん歩く私の後ろを、速水さんが一定の距離を保ってついてきた。 どこへ向かっているのかもわからず、私は目についた居酒屋に入った。 「…おい」 席に座ると、速水さんが私の荷物をテーブルに置いた。 「あ。すいません…」 そして何も言わずに私の前に座って、ビールを注文した。 「お前もビールでいいよな」 「いや。日本酒、冷やで」 「やけ酒かよ?やめとけ」 「いいから飲ませてください」 少しの間私を見つめてから、速水さんは冷酒を頼んでくれた。 無言で飲みきって、ふぅ…と息をつく。 「何も食べないでそれ以上飲むと、悪酔いするぞ」 いつの間に頼んだのか、熱々の鍋を取り分けてくれた。 手をつけずにじっと鍋を見つめる。 見かねた速水さんが、お箸で豆腐を小さめに切って、私の口元に運んでくれた。 「…おいし…!」 出汁が染みて、すごく美味しい…! 美味しいのに、それ以上食べられなかった。 ただ呆然として、グツグツ煮えたお鍋を見つめるだけ…。 速水さんを巻き込んで迷惑をかけてる。借りを作っちゃダメだ…と思うのに、いつまでも体を動かせないでいた。 「…品川が、女連れ込んでたのか?」 ポツリと聞かれ、光景がよみがえって、思わず下を向いててコクンとうなずいた。 「…なんでお前の部屋で?あいつなに考えてんだ?」 呆れたように言われ、あんたもたいがいだけどね、と…心の中でちょっと冷静に突っ込んだ。 「妹…だったんですよ…」
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