エピソード14.

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それからの私たちは冷戦状態。 …というか、腫れ物でも触るように私の顔色を伺う響平さんと、むうっと怒った顔の私。 おはようには、おはようが。 ただいまにはお帰りが返ってくるだけの日々を過ごした。 家に帰るのが遅いときは知らせるというルールは健在だったけど、響平さんからのメッセージなんて…あてにしていない。 なのにいちいち「今から帰るよハニー」とか「もうすぐ着くよマイエンジェル」とか、今までにないメッセージを送ってくるようになった。 その度に笑っちゃいそうになるんだけど、簡単には許さないんだから! 食事は用意しなくていい…とは言われていたけど、今日は久しぶりに凝ったものでも作っちゃおうかな…と思いつく。 料理をしてると集中して考え事ができて、頭がスッキリすることが多い。 最寄り駅の大型スーパーに立ち寄って、新鮮な食材を見ながらメニューを考えた。 …作っておけば、食べるかな。 今日も新人達を引き連れてご飯に行くかもしれないけど、そうじゃなかったら食べるかも。 帰りがけ覗いてみたら、いつものように響平さんの周りには皆が集まっていて、屈託のない笑顔を見せていたっけ。 顔ぶれは女子だけじゃなく、男子も多かった。 響平さんは基本兄貴体質というか、面倒見がいいから後輩や部下に好かれるんだよね。 人との距離…女性との距離の取り方は壊滅的に下手くそかもしれないけど、3年前に比べて下心感は消えてる…。 あの頃は今よりもっと色気のある感じで、今はそんなアクが抜けたというのが、付き合ってみてわかった。 響平さん、昔は女たらしだったけど、今は栞たらし。 こんなに私を悩ませて心乱して、何が面白いんだろ? 何か隠してることがあるなら教えてほしい。 教えてくれない理由はなに? 「…もしかして、栞ちゃんじゃない?」 野菜売場で無意識にナスを1本手にとって、じっと見ながら考え事をしていたらしい。 声をかけられてとっさに顔を上げると…
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