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……
…とは言え、心配ではあった。
お互い言葉に出したわけではないが、陸とは将来、結婚も見据えてお付き合いしていたから。
速水さんが何かの拍子に3年前のことを口走って、陸の耳に入ったら困る。
それに帰ってきたその人気ぶりを見て思う。
3年前の突然の海外転勤に、私も深く関わっていたことが社内で知られたら…。
どんな噂をたてられるかわかったものではない。
ここはしっかり口止めしておくに限る!
「葛西、営業企画課にこの資料渡してきて」
川上課長にファイルを渡された。
この時、ピカッと閃いてしまった。
そうだ…このファイルの中に…。
思い立った私は、メモに走り書きをしてファイルに忍ばせ、営業企画課へと出向いた。
速水さんの席まで歩きながら、私に気づいた陸と目が合う。
陸は企画課ではないものの、営業部ではある。
誰にもわからないように視線を絡ませ、目で笑う。
…陸、ちゃんと気づいてくれたかな…。
「おーい。どこへ行くんだ?」
響くような低音ボイスにハッとして前を見ると、目の前に壁が迫っていた…。
やば。
陸に見とれて、速水さんの席を通りすぎていたらしい。
もう少しで壁に顔面打ち付けるところだった…
あぶな…!
「あ、あの…川上課長から預かって参りました」
ファイルを差し出しながら速水さんをじっと見て、メモに気付かせる。
[速水課長へお願いです]
と書かれたメモを手にした。
よし。気づいた…!
「それでは、よろしくお願いいたします」と言って席を離れようとした。
「…あ。ちょっと待って。ファイル、すぐ返せるから」
は?
いや返してもらうんじゃなくて、そこに書いてあるとおりにしてくれたらいいわけよ。
速水さんがメモの裏にこう書いてきた。
『その話は今日19時から丸見ホテルのラウンジで』
はぁ…??
何がホテルだ!?
ラウンジとか言って、万が一にも部屋へ連れ込まれたらかなわない…!
ペンを奪ってホテルに✕をつけ、こう走り書きした。
『隣の駅の焼き鳥や『はまじ』で!』
…速水が笑いを噛み殺してる。
「し…失礼いたします」
メモを握り潰してファイルを置いて、営業企画課を後にした。
なんかいいようにやられた気がする…。
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