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約束だから行くけども。
2人で会うのは正直気が重い。
でもハッキリ言うことは必要かもしれない。
そうだ。言いたいことだけ言ってビール一杯飲んで焼き鳥食べて…30分で帰ろう。
そう決めて約束の時間より早く焼き鳥『はまじ』に着くと、カウンターの一番奥にパッと目を引くイケメンがいた。
はや…。もう来てる。
嫌味なまでに放たれるイケメンオーラ…。
速水さんはご機嫌だった。
「たしか酒はけっこう強かったよな。…焼き鳥も好きだったろ?」
3年前連れて行ってもらった地鶏の焼き鳥屋さんを思い出した。
カウンター席だけの小さなお店だったけど、すごくジューシーで美味しい焼き鳥だったことを思い出す。
…てか、なんか近くない…!?
腕が触れそうな近さが気になって、椅子をずらして離れようとした。
でも椅子が重いのか、なかなか動かない。
「なんだよ。もっとそばに来たいのか?」
可愛いな…と言って、ビクともしなかった椅子ごと引き寄せられて、ひゃあ…!っと変な声が出て笑われる。
「…私が言いたいのは1つだけです!
…3年前のことは、言いふらさないでください」
「…それは渡されたメモにも書いてあったからわかったよ。でもなんでそんなことをわざわざ言うんだ?」
「それは…彼に、恋人に知られたくないからです」
ここまで話して、速水はようやく笑うのをやめた。
「…ということは、お前の彼氏ってうちの会社の奴か?」
…隠しても仕方ない。
そう思ってハッキリ言った。
「品川…陸さんです」
目線だけを右に移して「あぁ、品川か…」と呟く。
「…営業部の部下…ですよね。だからあの、変なこと言ってほしくないんです。別に速水さんとの間に何があったわけでもないですけど…彼に誤解されたくないから…」
「ふぅん。3年前、俺の部屋でキスしたことは、2人だけの秘密ってことか」
…やだ。覚えてるんだ…
「…和美さんにのしかかられて、首を絞められたこと、私も誰にも言いませんから」
そう言った私に、意外そうな目を向けてニヤっと笑った。
「秘密の関係とは…そそられるな…」
と言って速水さんは豪快に焼き鳥を食べ始めた。
…
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