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 星明かりは思う以上に明るく、淡く彼の横顔を照らしていた。窓枠に縁取られて、それはまるで絵画のように幻想的に映る。黙ってそれを眺めながら、最期にこんな景色を見られて良かった、と思う。そうしているうちに静謐な時が、彼が深く吐いた息の音で終わりを告げる。繋いでいた手をそっと離すと、彼は持ってきていたリュックサックからステンレスの水筒のようなものを二本取り出した。立ち上がって蓋を開け、長椅子に丁寧に中の液体をばらまいていく。臭いから、オイルの類いなのだとわかった。私も立ち上がると、もう一本の水筒を受け取って彼とは反対側の列の長椅子に掛ける。液体が弧を描きながら煌めき、長椅子に染み込む。浴びるほどにそれは闇に同化し、暗さを増幅させていった。  私が全て注ぎ終えると彼は傍で待っていてくれて、優しく手を取って祭壇の前に誘われる。並んで座ると、彼はまたリュックサックから何かを取り出した。ウィスキーボトルにロックグラスを二つと、薬瓶。暗がりに浮き出るように、それぞれの縁に光が駆ける。彼は薬瓶を開けると、それぞれのロックグラスに錠剤を降り入れた。底が隠れる程度になると、今度はウィスキーを注ぎ入れる。とぷっと蜜のような液体が、錠剤を包んで隙間を埋めていく。そして少量の水を混ぜると、ふわりと粒が舞い上がった。それらは琥珀の奔流に身を委ね、次第に溶けて輪郭を曖昧にしていく。まるで星空を閉じ込めたみたいに光の粒が瞬いていた。弄ぶようにグラスが回り、星々は旋回しながらしゅるしゅると軌道を描いて、しばらくすると泡となって消えてしまった。
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