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「そうびさん」
また、脳内がやんわりと明滅する。その声を聞くとたちどころに現れる光は、あの瞬間から少し形を変えていた。光で満たされたあと、闇の亀裂が花弁を描き、暗色に塗り込められて花が咲く光景が脳裏に焼き付く。
「来てくれたんだね。うれしいな」
屈託なく微笑む彼に対して、私は、ども、と恐縮気味に会釈した。
あれ以来、度々彼は私に声を掛けてくるようになった。そうびさん、そうびさん、そうびさん。最初は名前を間違えた失態を挽回したいから話しかけてくれているのだと思っていたけれど、だんだんそういう意図はないようだとわかってきた。話題は自然とサークルに関することに向き、体験入部も楽しかったし、話を聞いているうちにさらに興味が膨らんで、私は結局、サークルに入部することにした。それに、彼のあの一瞬の欠落も気に掛かっていた。
入部初日のその日も、部室として与えられている七限終わりのA5講義室で、彼は当然のように私に声を掛けてくれた。皆が好きな、人当たりのいい微笑みで。その時点ではまだ、私は後輩として気に入られているだけだと思っていた。他の新入部員にも挨拶はしていたし、好意を持たれるなんてあり得ないと高を括っていた。けれど、入部してしばらく経ってから行われた新入部員歓迎会の夜、その考えは崩されることになった。
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