ポケットの四季

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「……やはり、こうなってしまいましたか」  再訪した顧客の家が、もぬけの殻になってしまっていることを知り、葛郡はまた溜息をついた。これで何度目だろうか。超長期プランの料金は回収済なので、損をしているわけではないが、せっかく開発された素晴らしい商品が見向きもされなくなってしまうのは悲しい。  社が『autumn』を個別で販売しない理由はこれにあった。商品が高性能すぎるが故の弊害と言えるだろう。この商品は、その季節の名称が引用される例え、あるいは語呂のひとつまで、汲みとって再現してしまうのだから。 「『秋』を呼ぶと『飽き』が来てしまうなんて、なんとも洒落の効いた欠陥でございます」  そう呟き、葛郡は新たな顧客を求めて、また歩き始めた。
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