たとえば、ポケットの中のゴミみたいに

8/8
前へ
/8ページ
次へ
「じゃあ、私、反対側だから」 「おう。気をつけて帰れよ」 「……うん」 古川は俺に手を振って、3番ホームに続く階段を下りていく。 「……じゃあな」 彼女の背中を見送ってから、俺は1番ホームに向かう。 “またな”とは口にしなかった。 たぶん、古川が俺を呼び出すことは、もう二度とない。 ……そんな予感がしたから。 覚悟は出来ていたはずなのに、やっぱり胸が鈍く痛んだ。 そういや、なめんの忘れてた。 自宅の最寄り駅で改札を出た俺は、ジーパンのポケットからミント味のアメをひっぱりだす。 アメを口の中に放りこんで、包み紙は手でくしゃっ、と丸めてポケットの中にまた突っ込んだ。 ……もし、もしもの話。 好きって気持ちも、包み紙みたいに、くしゃくしゃに握りつぶして、捨ててしまえるようなものならよかったのに。 そしたら、古川も俺も、もっと楽だったはずなのに。 ……そんなん絶対ムリなんだけどさ。 失恋て、たとえば、そう、ポケットの中に入れ忘れたまま、洗濯してしまったティッシュみたいなものだ。 まとわりついて、こびりついて、頑張ってとろうとしても、なかなかとれてくれない。 きっとこれからも、俺はふとした瞬間に、古川のことを思いだしてしまうんだろう。 「ま……しゃーねーよな」 どんなにイタくて卑怯で不誠実な片思いでも、それでも古川を好きになったことは、一ミリも後悔してない。 ……でも。 爽やかな香りで、鼻の奥がツンとして、俺はちょっとだけ泣いた。 【おわり】
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加