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「じゃあ、私、反対側だから」
「おう。気をつけて帰れよ」
「……うん」
古川は俺に手を振って、3番ホームに続く階段を下りていく。
「……じゃあな」
彼女の背中を見送ってから、俺は1番ホームに向かう。
“またな”とは口にしなかった。
たぶん、古川が俺を呼び出すことは、もう二度とない。
……そんな予感がしたから。
覚悟は出来ていたはずなのに、やっぱり胸が鈍く痛んだ。
そういや、なめんの忘れてた。
自宅の最寄り駅で改札を出た俺は、ジーパンのポケットからミント味のアメをひっぱりだす。
アメを口の中に放りこんで、包み紙は手でくしゃっ、と丸めてポケットの中にまた突っ込んだ。
……もし、もしもの話。
好きって気持ちも、包み紙みたいに、くしゃくしゃに握りつぶして、捨ててしまえるようなものならよかったのに。
そしたら、古川も俺も、もっと楽だったはずなのに。
……そんなん絶対ムリなんだけどさ。
失恋て、たとえば、そう、ポケットの中に入れ忘れたまま、洗濯してしまったティッシュみたいなものだ。
まとわりついて、こびりついて、頑張ってとろうとしても、なかなかとれてくれない。
きっとこれからも、俺はふとした瞬間に、古川のことを思いだしてしまうんだろう。
「ま……しゃーねーよな」
どんなにイタくて卑怯で不誠実な片思いでも、それでも古川を好きになったことは、一ミリも後悔してない。
……でも。
爽やかな香りで、鼻の奥がツンとして、俺はちょっとだけ泣いた。
【おわり】
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