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第1話 現実
テレビで見るのとは全然違っていた。
もちろんそんなことはわかっていた。
ドラマと現実は違うって。
でも、目の前で見るそれは、あまりにも想像していたものとはかけ離れていた。
邪魔にならないように、廊下のぎりぎり端に寄って、ストレッチャーが目の前を通り過ぎるのを見ていた。
驚くほど速いスピードで運ばれて行く。
それなのに、患者の上にのって心臓マッサージを続ける救命士自身を支えるものは、自分の足の筋力しかない。
ノーブレーキの自転車で、急な坂道を下っているのに、その手はハンドルを握っていない。
その手は誰かの「命」を支えているから。
東奈大学医学部看護学科では、1、2年で一般教養と実技基礎を学び、3年生から、隣接する東奈大学病院で、2週間毎に、全ての科をまわる臨地実習が始まる。
初めて実習に配属されたのはECU(救命救急)だった。
そしてその1日目は、自分がいかに無力かを目の当たりにしただけだった。
今、自信を持って「出来る」ことはないに等しい。
ここに来る患者さんは、一瞬で容態が急変する。
だから、授業で習ったことも、あのスピードでは役にたたない。
何もかも足らない……
実習が終わって、服を着替えるため更衣室に行くと、既に数人が着替えているところだった。
「未来のとこどうだった?」
同じクラスで仲の良い七海が更衣室で話しかけてくる。
「頼まれたものを絶対に間違えないように急いで持って行くのと、後は邪魔にならないようにしてただけ……」
「誰かついてくれたりしなかったの?」
「みんな忙しそうで」
「さすがECU」
「七海のとこは?」
「眼科は、実習生1人に1人看護師がついてくれて、今日の主な仕事は患者さんを診察室に案内することだったよ」
「案内するだけに看護師がついてくれるの?」
「そ。雰囲気もほんわりしてて、みんな優しかった。そっちは?」
「みんなずっとピリピリしてた……」
それでも、どんなに無力でも、また明日あそこに行かなければいけない。
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