第16話 8年

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第16話 8年

今日から脳神経外科での実習。 看護師長さんから最初に、ここでは意思の疎通が図れない人の方が多いと説明を受ける。 スタッフステーションの中には、全ての病室のいろいろな数値が全て表示されたモニターがたくさんおかれていて、その日モニターを見る担当の看護師がずっと目を離さないでいた。 ここも、最初に行ったECUみたいに空気がピリピリしている。 きっと難しい状態の人が多いんだ…… 朝一番は、夜勤の人の申し送りから始まった。 聞き洩らさないようにメモの準備をする。 「今朝ICUから移ってきた患者さんがいます。遷延性意識障害で8年目の女性ですが……」 8年…… 家族はどんな気持ちで過ごしてきたんだろう。 母は膵臓癌で命を失った。 気が付いた時にはステージIII。リンパ節に転移もしていた。 サイレントキラーと言われるこの癌は、早期発見が一番難しい。 あっという間だった。 短い間でも見守ることしかできない家族は苦しかった…… 「それでは、近本さんは楠さんに、日向さんは山野辺さん。上本さんは谷口さんについてください。以上です」 「よろしくお願いします」 「よろしくね」 山野辺さんは優しそうな人だった。 「まずは、ついて来て、見ながら覚えてくれる?」 そう言われて、メモを片手に後を追った。 「午前中のうちに全員の血圧と脈拍を測って行くから。最初はここね。さっき言われてた、遷延性意識障害の患者さん。柳志保理さん、26歳」 病室に入ると、きれいな女性が横たわっていた。 モニター心電図や複数のチューブがなければ、ただ眠っているようにしか思えない。 綺麗に切り揃えられた爪。 どんなに家族に大切にされているかがわかる。 「大丈夫? 次に行くよ」 「はい」 「こちらの竹本洋子さん、76歳の方は、今日から洗髪ができるから。日向さんにお願いするので、後で説明するね」 「はい」 言われたことを聞き漏らさないように、メモをした。
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