第3話 忠告

1/1
前へ
/46ページ
次へ

第3話 忠告

東奈消防署に着くと、中にいた少し年上の男性がこちらに気がついて声をかけてきた。 「非番の日も仕事に来た?」 「違いますよ。坂下います?」 「坂下ならさっきロッカーのとこにいたけど……え? 何? 彼女を自慢しに来たの?」 「それも違いますよ」 眞白さんは笑いながら、 「こっち」 と言って、わたしを中に連れて行ってくれた。 ロッカーのある場所に行くと、女性の消防隊員がいた。 「坂下、ごめん、この子なんとか取り繕えないかな? JR乗らなきゃいけないんだ」 「何?」 坂下と呼ばれた女性は、わたしのブラウスとスカートを見て、 「あぁ……これは困ったね。何か探してくるけど、あんまり期待しないでよ。手を洗いたかったら、そこね」 と言うと、ロッカールームの端にある手洗い場を指し示し、どこかに行ってしまった。 「あっちで待ってるよ」 そう言うと、眞白さんもわたしを一人置いて行ってしまった。 手を洗っていると、戻って来た坂下さんが、わたしをじーっと見ながら言った。 「医療関係者?」 「違います。まだ学生です。看護の……」 「看護か。やっぱりね、普通の子はそういう洗い方しないから。これ、服どうぞ。わたしのを貸してあげられたら良かったんだけど、ここにはランニングウェアしか置いてないから。それじゃ恥ずかしくてJR乗れないでしょ? これ、ちゃんと洗ってあるらしいから。レギンスはわたしのだから安心して」 「ありがとうございます」 「ここで着替えられる? 誰も入って来ないように見てるから」 「大丈夫です」 わたしはさっさと上のブラウスをぬいだ。 下着姿になったわたしを一瞬見た坂下さんが、目を細めた。 「この傷ですよね?」 右肩から脇に沿ってウエストのあたりまで続く大きな傷跡。 「ごめん」 「子供の頃、木から落っこちて、その時ついた傷なんです」 「そうなんだ。それだけ大きいと、痛かったよね……」 「それが、全然記憶にないんです。わたし、木から落ちて気を失ったらしくて、ドクターヘリで、そこの東奈大学病院に救急搬送されたんですけど、気がついたら全部済んでて、ベッドの上でした」 貸してもらった服は、普通にパーカーとレギンスだったけれど、背の低いわたしが着ると、パーカーのワンピにレギンスという、よく見かける格好になった。 「どう? 大丈夫そう?」 「はい、ありがとうございます」 一緒にもらったビニールに着ていた服を入れていると、坂下さんが真面目な顔で聞いてきた。 「眞白の彼女……じゃあないよね?」 「違います!」 「あいつは……やめといた方がいい」 「本当に、そういうんじゃないです」 「ならいいけどさ」 「やめといた方がいい」なんて言い方をされたら逆に気になってしまう。 「どうして……」 そう聞こうとしたした時、署内に放送が流れた。 「東奈署管内 火災入電中」 「ごめん、行くね!」 坂下さんが慌ただしく出て行った。 「東奈署管内 建物火災 一般建物」 次の放送のすぐ後で、大きなサイレンとともに、消防車と救急車が署を出て行った。
/46ページ

最初のコメントを投稿しよう!

155人が本棚に入れています
本棚に追加