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過去から未来へ ---眞白より---
志保理が亡くなった日、志保理の母親から電話をもらった。
「明け方、志保理が……今度は永い眠りについたの。それだけ知らせたくて。お葬式は家族だけで行うから」
ほんの1分も満たないような電話だった。
最後まで、志保理がいつか目を覚ましてくれると信じていたけれど、それは叶わなかった。
これから、どうしたらいいんだろう?
何もなくなってしまった……
そんな時だった。火災と崩落事故の連絡が入ったのは。
現場のことは断片的にしか記憶にない。
そんな中途半端だったから、怪我をしてしまったのかもしれない。
「シュウ、応援を待て!」
誰かの叫んだ声だけは鮮明に覚えている。
だけど、今、目の前で助けを待っているこの人には、まだ希望があるから。きっとオレなんかより尊い命を持っている……
そんなことを思ってしまったから、無茶をした。
救助者も自分も、無事に帰って来なければいけなかったのに。
結果、瓦礫の下にいた男性は、ほぼ無傷で救助することができたものの、自分は肩を強く打ちつけ、右手首を骨折してしまった。
唯一残された仕事もできなくなってしまった。
もう、いいか、と思った。
普段は口にしない酒をバカみたいに飲んだ。
おかしなことに、飲んでも飲んでも酔えないばかりか、いろいろな記憶が鮮明に浮かび上がってくる。
最後に笑っていた志保理を見た日のこと。
どうしてあの日、志保理のそばにいて、道路側と志保理の間にいなかったんだろう?
どうして、志保理をおいて先に行ってしまったんだろう?
何度も何度もやり直したいその光景が目に浮かぶ。
日向未来
コンビニでコーヒーをぶっかけられたのに、相手を責めるどころか、そっとその場から逃げるような子。気になって思わず声をかけた。
真っ直ぐに未来を見つめている。
オレとは全然違う場所で生きている子。
どうして、この子はオレの部屋に断りもなく入ってきて、そこら中にある、ペットボトルや空き缶を拾っているんだろう?
どうやったらオレのことを放っておいてくれるのか……
彼女が軽蔑するようなことを言ってみた。
それなのに、怒るわけでもなく、オレの言うことを聞こうとする。
彼女のからだの傷跡についてわざと聞いた。きっとこれだけの傷を負ったのだから、思い出したくないはず。オレはその心の傷を抉った。
それなのに、彼女はオレを見捨てようとしない。
放っておいて欲しいのに。
何度拒絶しても、ひどく傷つけるようなことを言っても、オレのそばにいる。
自分がこんなに醜くてどろどろとした感情に支配されていくなんて想像もしていなかった。
昼間、酒を飲んで、寝て、起きてを繰り返す。
何度もあの事故のことが思い出されて、眠っているのに眠れていないような感覚。
そうか、ずっとこの記憶から逃げ出すために、動き続けていたんだった。
自分が志保理を救えなかった罪滅ぼしのように、誰かを救助し続けて、疲れきって、ようやく眠れていたんだった……
夕方になると、未来が来る。
ずかずかとオレのいる場所に入り込んで来る。
未来がオレの代わりに泣く。
それで、オレはようやく泣くことができた。
ひどく傷つけることばかりしてきたのに、未来はオレに笑顔を向ける。
未来が笑うと、心の中が温かくなる。
this is the last.
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