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なーんだ。
詩織…言ってくれればいいのに。
私もあげるよ、って。
私も好きなの、って。
詩織が言ってくれれば私は…
…言われたところで私はどうしていただろう?
夕陽が差し込む昇降口。
清野先輩を扉を出たところで待っていたら、詩織がどこかから出てきて靴を履く前の先輩に話し掛け、小さな紙袋を渡した。
あっ!…
声にならない声が出た。
学校指定のコートはポケットが浅い。
先輩を待ち伏せするために走った時に一度ポケットから落ちた。
拾い上げて中身を心配したけど…あの時に渡せないくらいグチャグチャになっていたら、こんな場面を見なくて済んだのかもしれない。
手に持っていた小さな包みをポケットに戻し握りしめる。
クシャ…という音が微かに聞こえた。
行き場の無い感情がポケットにある行き場のない包みに集まる。
中身が軟らかくなっていくのがわかる。
…私より先に会える場所で待っていたんだ。
さらに握られて小さくなった包みからリボンが外れる感覚があった。
二人が笑い合っているのが見える。
逆光に照らされキラキラした二人はお似合いだった。
黒い闇が心に充満し涙は出てこない。
これ以上ここにいたら悪魔になってしまいそうだ。
音を立てないように振り向き顔をあげたら、自転車置き場から出てくるクラスメイトの公輔と目が合った。
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