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『おう。』 『ああ…うん。』 いつ自転車置き場に来たんだろう。 あの二人を覗き見する私を公輔は見ていただろうか。 黒い感情に加えて見られていたかもしれないという屈辱が混ざる。 もう嫌だ、何もかも。 消えたい。 早く一人になりたい。 『じゃあね。』と言って歩き出したら自転車を引いたまま横に並んだ。 『駅まで一緒に行こうぜ。 今日は本屋に用があるんだ。』 嫌だ、と言ったら負けな気がした。 返事をする気力も無く、何となく並んで歩く。 公輔は普通に話したりするが、じっくりと深い話はしたことがない。 名前で呼ぶのはみんながそう呼ぶからで特別仲良しというわけじゃない。 彼はあまり人と連まず割と一人でいて掴めない。 そんな相手とよりによってこんな時に。 『ポケットにあるチョコレートくれよ。』 いきなり言い出した。 やっぱり見ていたの? ポケットに集まっていた行き場の無い感情が一気に公輔に向かう。 『なんのこと。』 苛立ちを隠せないまま公輔を睨み付けた。 だけど睨み付けた彼の顔に揶揄っている感じは無い。 『手作りか? 味見してやるよ。』 『手作りじゃないよ! 手作りは重いかなと色々考えてやっと選んだ…』 そこまで言ってハッとした。 自分から白状してしまった。 『アホだなー高橋(たかはし)は。』 公輔がクククと笑った。 このやりとりに不思議と心が緩んだ。 …たぶん公輔が言う‘アホ’がとても穏やかだったから。 見られていたのは確定した。 諦めるしかない。 『…握り潰してグチャグチャだよ?』 『持って帰ったって捨てるだけだろ? 俺が食べて成仏させてやるよ。』 『なんかその言い回し、おじさんっぽい。』 ポケットから握っていた無残な塊を出して渡した。 『高橋…ずいぶん握力あるんだな。』 その驚いた表情に笑ってしまった。
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