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『…詩織、何で言ってくれなかったのかな。
部活で先輩と三人で話してても、そんな素振り全然無かったのに。』
心が緩んだら弱音が漏れた。
『高橋から先に保田に打ち明けたんだろ?
前に教室で話してるの聞こえた。
先に言われちゃ言えないだろ。』
『…そう…だよね。』
『反対の立場だったらどうしてたよ?』
『…うん…言わないね。
私が詩織に言わせなかったってことだね…。』
第三者にジャッジされて頭が冷える。
黒い感情が薄れていく。
詩織は酷いと思っていたが詩織に卑怯な方法を取らせたのは私のせいなのか。
自分勝手に打ち明けて、詩織を黙らせた私の方が酷い人間なんだ。
ごめん、詩織。
でも…少し言いつけたくなる。
『後からじゃ言い出せないけど、詩織を出し抜くように先回りして渡すようなこともしないよ…。』
『そうだったのか。
保田もなかなかやるな。』
またクククと笑う。
『三年生は卒業しちゃうから必死だったんだろ。』
『…それはわかる。』
『高橋はそーゆーのは出来なさそうだな。
単純なおまえのいいとこだな。』
ふいに褒められて涙が溢れ出した。
私のことも詩織のことも悪く言わない。
今時にしては珍しく黒髪のままでいるこの人は本当に同じ歳なの?
ずいぶんと大人に思える。
『あらら』と言った公輔が見えてきた公園の方へ私を誘導する。
私のペースで歩いていたからだいぶ日が暮れた。
泣けてきたのが暗闇になってからで助かった。
『公輔、ごめん…。』
失恋して泣いている同級生なんて面倒臭いだけだろう。
ハンカチタオルで目を押さえながら謝った。
『一緒に帰ろうって誘ったのは俺だから。』
自転車のスタンドを立てながら言う。
優しい声色にさらに弱音が漏れてしまう。
『明日から詩織とどうやって話せばいいの…。』
『高橋次第だろ?』
今度は少し力強く言う。
ハッとして公輔を見た。
『また保田と仲良くしたければ普通に話しかければいい。
そんで保田の気持ちを考えていなかったことを謝ればいい。
もう仲良くしたくなければ話し掛けなければいいだけじゃん。』
暗闇に白い歯を見せてニカッと笑っている。
『謝っても保田が受けれなかったらそれまでの相手だったってことだ。
離れた方がいい。
向こうも出し抜いたことを謝るべきだし。』
本当にそうだなと頷くしかない。
『まあ』と下を向いて砂を蹴りながら続ける。
『お弁当食べる相手に困ったら俺が一緒に食べてやるよ』と言った。
思いがけない言葉にまた泣けてくる。
公輔の大きさに包まれて不安が消えていく。
『うん…うん…ありがとう。』
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