三章 愛されない悪の皇女

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キャンディスは首を動かして顔を確認したかったが、体の自由がきかずに動かせないままだ。 前からスラリと剣が抜かれる音が聞こえた。 「ひっ……」という引き攣ったような声が上から漏れる。 (もしかして、お父様が……?) その声は間違いなくヴァロンタンのものだった。 「こ、皇女様は……っ、具合が悪いようなので医務室に運ぼうかと思いまして」 「ホワイト宮殿にも常駐の医師がいるはずだ。どこの医務室に運ぶというのだ」 「えっと……それは」 「答えろ。返答次第では首を斬る」 ヴァロンタンの言葉にガタガタ震えている二人は明らかに焦りを見せて吃り始めてしまった。 「キャンディス」 「……!」 「聞こえるか、キャンディス」 ヴァロンタンに初めて名前を呼ばれたとしても返事ができずに沈黙だけが流れていく。 キャンディスが何も答えないことを不思議に思ったのか「キャンディスの顔を見せろ」と怒りを孕んだ声が聞こえた。 (お父様はわたくしを心配してくれようとしているの?ましてや助けてくれるなんてありえないはずだわ……) ヴァロンタンの手がキャンディスの顔に伸びるのと同時に体が浮く感覚がした。
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