三章 愛されない悪の皇女

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壁にビチャリと跳ねる血を見て思いきり悲鳴をあげたかったが唇も痺れているため声は出ない。 パッと血を払って剣を納めると、ヴァロンタンは両手でキャンディスを抱え直す。 あの時と同じ、怒りを孕んだ冷たい目を見て背筋がスッと寒くなり、キャンディスは震えが止まらなくなる。 止まらない吐き気にキャンディスは息苦しさを感じていた。 ユーゴが指示を出すとすぐに複数人が現れて布のようなものをかけると死体を片付けていく。 この時ほど視界が涙でぼやけていてよかったと思ったことはない。 「情報を吐かせる前に殺さないでくださいよ。まぁ、外に不審な馬車が停まっているので拷問して吐かせるからいいんてますけど」 「今すぐ各宮殿から医師を集めろ」 「はっ!」 ヴァロンタンに抱えられたままバイオレット宮殿へと足を踏み入れる。 とりあえずはギリギリのところで攫われずに済んだようだ。 キャンディスは自分の部屋のベッドよりも更に大きなベッドへと寝かされる。 恐らく宮殿中から集められた医師によって、治療を受けることになったのをぼやけた視界で見つめていた。 ヴァロンタンは椅子に腰掛けて、その様子をずっと見ている。 いつもより険しい表情に医師たちの額には大粒の汗が滲んでいた。 キャンディスが飲まされたのは即効性のある痺れ薬だったようで幸い後遺症が残ることもなく、すぐに薬は抜けて動けるようになった。 だが、キャンディスはすぐに解放されることなくホワイト宮殿に返されることはなかった。
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