序章 悪の皇女は愛されない

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キャンディスは邪魔なアクセサリーを全部取り去っていたが、母の形見のペンダントだけは身に付けていた。 光の元で輝くアクセサリーも今は意味をなさない。 それが滑稽に見えた。 (まるで今のわたくしじゃないの) それでも泣き声を言わなかったのは皇女としてのプライドがあったからだ。 それに縋らなければ心が壊れてしまう。 (わたくしはお父様に認められたかった。愛されたかった……それだけなのに) ルイーズは今、父や皆に愛されながら温かいベッドで寝ているのだろう。 『あなたがお父様に愛されるわけないわ』 その言葉を認めたくなくて、カサつく唇を血が滲むほどに噛んでいた。 『悪の皇女』という不名誉な名前は、頭にこびりついたように離れなかった。 飲まず食わずでいてもすぐに死にはしない。 空腹に耐えかねてカビが生えたパンと泥水に手を伸ばしては引っ込める。 キャンディスは無意識にパンを口にしていて吐き戻したことがあった。 その時にキャンディスを嘲笑うように唇を歪めている看守たちの顔が目にこびりついて離れない。 何日経ったのかはわからないが、かなりの長い時が流れたような気がした。 キャンディスの意識が朦朧としてくる頃、誰だかはわからないが牢に入ってきては何かを言って去っていく。
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